最新記事

中国

中国、不正ワクチン事件の核心は「医療改革の失敗」

2018年8月21日(火)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

この会議で「一地方のワクチン製薬会社」の不祥事に関して討議し、関係者の処分を決定したのである。国家の重要な戦略を討議し決議するチャイナ・セブンの会議が、一地方の一民間企業の不祥事に関して招集されることは非常に稀な現象だ。

会議では「道徳と良識のデッドラインを越えた」関係者に厳罰を与えることを決定した。その対象は長春長生の関係者のみならず、吉林省副省長、長春市市長、吉林省政治協商会議副主席、市場監督管理局党組織書記、国家葯監局局長、食品葯品監督管理総局副局長など、行政方面も含めた40人以上に上る。

こうまでする背景には、実は中国の医療改革がもたらした災禍がある。

医療の市場化と中国の医療改革の失敗

1978年末に改革開放が始まるまでは、中国では「ゆり籠から墓場まで」、人民の民生問題は全て終身、中国政府が責任を持って保証していた。医療費も教育費(学費や教科書代)も無料だったのだが、改革開放が始まってからは、紆余曲折を経ながら自己負担となり、「医療、教育、福祉(高齢者問題)」の民営化と市場化が始まった。

そのような中、2003年12月16日、国有企業の「長春高新」もまた元国家衛生部という中央行政省庁直属の研究所から民営化されて「長春長生」となり、高俊芳という女性が34.68%の株を廉価で入手して総経理になる。彼女は夫を副総経理に、息子を副董事長にして家族経営を始めた。国民の命を預かるワクチン製造を、家族経営と官との癒着による利潤を求めるだけのサイクルに任せてしまったのだ。今回の不正ワクチン事件は、まさに「医療の市場化」がもたらした結果であると言っていいだろう。

中国では「養老、教育、医療」を、中国経済を支える3本の柱と位置付けて「トロイカ」(中国語では「三駕馬車」=「三頭立ての乗用馬車」)と呼ぶ。「養老」というのは「介護などを含む高齢者福祉」を表す中国語だ。

今年7月16日付けの「新華網」(中国政府の通信社「新華社」の電子版)は「養老、教育、医療は内需を牽引する"三駕馬車"」というタイトルの記事を掲載した。

中国の国家統計局によれば、2017年末における60歳以上の老年人口は2.41億人で総人口の17.3%を占め(65歳以上は1.58億人、11.4%)、2050年には4.87億人、全人口の34.9%に達するという。したがって「養老」は爆発的な経済効果をもたらすと、中国はソロバンをはじいている。

教育費に関しては海外留学する中国人留学生の総数は、2017年には60万人に達しているので、これもまた中国国内で市場化して競争させれば、経済発展を大きく押し上げてくれるだろうというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中