最新記事

アメリカ経済

好況に沸く米国経済のパラドックス 景気支えるのは低所得層の貯蓄切り崩し

2018年7月31日(火)14時05分

7月23日、活況を呈している米国経済の雇用拡大や消費増大の勢いを伝えるニュースの裏側を探れば、この好調さが主として、低所得層による貯蓄取り崩しや、債務積み増しによって支えられていることが分かる。写真はフィラデルフィアにあるドレクセル大学の消化器科に務める公認医療助手のマイナ・ホイットニーさん。6月撮影(2018年 ロイター/Jonathan Spicer)

経済指標のほぼ全てが、米国経済の活況を示している。だが、雇用拡大と消費増大の勢いを伝えるニュースの裏側を探れば、この好調さが主として、低所得層による貯蓄取り崩しや、債務積み増しによって支えられていることが分かる。

ロイターが米国の家計データを分析したところ、有所得者の下位60%が、財務状態が悪化にもかかわらず、過去2年間の消費伸び率の大半を担っていることが判明した。数十年にわたり、主に上位40%が消費拡大を牽引していた従来のトレンドとは異なる現象だ。

借入コストとインフレ率が上昇する一方で、トランプ米大統領の減税措置による効果が薄れつつある。このような状況下で、ガソリン価格のさらなる上昇や、関税による商品急騰といったネガティブなショックが起きれば、こうした最も脆弱な層が、危険な状態に転落する恐れがあると一部のエコノミストは警鐘を鳴らす。

そうなれば、史上2番目の長さとなった米国の景気拡大を脅かす可能性がある。個人消費は米国内総生産(GDP)の7割を占めている。

確かに、住宅市場は、2007年の崩壊直前の時期に見られた危険なレバレッジ水準に比べればはるかに安全な状態にある。失業率も2000年以降で最低に近い水準で、求人件数も記録的高レベルだ。懐具合が厳しくなったとしても、人々は支出を切り詰めるよりも、より長時間働いたり、副業を増やしたりする方を選ぶかもしれない。

実際に「財務状態は悪くない」と考える米国民が多数派になりつつある。米連邦準備理事会(FRB)が5月に発表した2017年の調査に基く米世帯の経済的幸福に関する報告書はそう指摘する。

しかし、所得階層別に、家計と賃金のデータをロイターが分析すると、消費や経済全体に対する低所得世帯の貢献が高まっている一方で、低所得層において財務ストレスが高まっていることが判明した。

2017年半ばまでの5年間で、所得下位40%では平均支出が税引き前所得を超えるペースで増大しているのに対し、上位50%は緊急時に備えた資産を厚くしており、所得による格差が拡大している。

これが、今回の景気回復におけるパラドックスだ。

過熱する雇用市場や健全な経済の兆候は、富裕層、貧困層のどちらにとっても、支出増加を促す効果がある。だが、米国の多くの低・中間所得層にとって賃金上昇が中途半端なため、支出増には貯蓄の切り崩しか、借金を増やす必要が生じている。

結果として、ここ1年、低所得層で財務の脆弱性を示す兆候が増加しており、クレジットカードや自動車ローンの債務延滞件数も上昇。そして、貯蓄は2005年以降で最低水準にまで落ち込んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月は予想以上に上昇 22年

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ワールド

ゼレンスキー氏、支援法巡り米国務長官に謝意 防空の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中