最新記事

中国

中国、対日微笑外交の裏──中国は早くから北の「中国外し」を知っていた

2018年5月7日(月)12時52分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

3.1996年4月、クリントン米大統領と韓国の金泳三(キム・ヨンサム)大統領が韓国の済州(チェジュ)島で共同声明を発表し、北朝鮮が唱える「3者会談」による平和体制以降を否定し、「中国を入れた4者会談」を提案した。

4.しかし2007年の第2回南北首脳会談において発表された共同声明では、再び「3者または4者による首脳会談を通して休戦体制を平和体制に転換させる」とした。

5.従って、今般の板門店宣言における「3者会談」の可能性を提起したのは、明らかに北朝鮮側であることが明確である。

以上が、中国政府が識者らに論じさせた根拠の骨格だ。

5月3日付のコラム<「中国排除」を主張したのは金正恩?――北の「三面相」外交>では、4月29日に韓国政府筋が韓国メディアに一斉に「2007年の南北首脳会談で"3者"を提起したのは金正日」と報道させたと書いた。これは今般の板門店宣言における「3者」提起が、決して韓国側ではないということを韓国政府が中国に知らせたかったためだと思うが、中国はもっと詳細に、「犯人」が北朝鮮であることを十分に分析し、知っていたということになろう。

中朝蜜月を演じた金正恩への不信感――6者会談前提の背後

そんなわけで、今年3月25日から27日にかけて北京を電撃訪問して中朝蜜月を演じた金正恩に対して、中国は心の奥では不信感を拭えていなかったようだ。

金正恩は「朝鮮半島の非核化と平和体制構築のプロセスにおいて、北朝鮮だけでは北朝鮮の自国の利益を保持することはできないので、何としても中国の後ろ盾が必要だ」というせっぱ詰まった気持から習近平に会い、その救いを求めたはずだと中国は言う。だというのに、その一方では、結局金正日以来の北の考え方は変わってはいない、というのが中国の大方の見解である。

何しろ江沢民時代から北朝鮮が表面上見せた中国への熱烈な友好的姿勢は際立っており、最高指導者となってからの金正日は7回にもわたって訪中している。その間、江沢民や胡錦濤と、どれだけ熱い握手を交わしてきたことだろう。

だからこそ、金正恩の電撃訪中に当たって、中国は「中国が主導する6者会談」復帰を前提として金正恩に要求したわけだ。またもや「3者」に持っていこうとする北朝鮮の策略を防いだはずだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中