最新記事

文在寅

韓国GM撤退問題は文政権のアキレス腱? 国費投入で救済なら国民反発

2018年2月27日(火)09時10分

 2月22日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、GM韓国の工場閉鎖を巡り窮地に立たされている。群山の同社工場で13日撮影。提供写真(2018年 ロイター/Yonhap via REUTERS)

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が窮地に立たされている。米ゼネラル・モーターズ(GM)が韓国事業を縮小した場合、給料の良い仕事が大量に失われ、文氏は政治的資本を失いかねない。

一方で、救済のため税金を投入すれば、国民の反感に直面することになる。

GMは先週、ソウルの南西、群山市の工場を閉鎖すると発表。韓国内に残る3工場の今後についても数週間以内に決定する方向だ。同社は韓国事業を再編し継続するため、韓国政府の支援を求めている。

政府やGM韓国の株式17%を保有する韓国産業銀行には十分な財源があるものの、同社への資金援助は国民の反対に直面する可能性があり、政治的に難しいだろうと政府当局者は話す。

「税金を使って民間企業を支援することに対して、国民から反発が起きる可能性から逃れることはできない」と、ある政府当局者は匿名で語った。

加えて、韓国では若者が正規雇用の職を見つけることがますます困難となる中、好戦的で有名な自動車労働者組合に対する世論の支持は低下している。

22日発表された調査では、30%がGMに対するいかなる公的支援にも反対だと答え、56%は同社が実現可能な再建計画を提示した場合のみ支援に賛成だと回答している。世論調査会社リアルメーターが実施した同調査によれば、雇用を守るために政府は無条件で公的資金を注入すべきと答えたのはわずか6%しかいない。

文氏は昨年、雇用創出を公約に掲げて大統領選に勝利した。その後まもなくして、公的部門において数十万人の雇用を生むために約11兆ウォン(約1兆円)規模の補正予算案を編成した。

しかし汚職スキャンダルが一部の韓国大手企業を揺るがす中、文大統領は政府と企業との親密すぎる関係にメスを入れる改革も約束している。

これまでの民間部門への政府による介入も、必ずしも成功してきたとは言い難い。

政府は2015年以降、造船大手の大宇造船海洋<042660.KS>に7.1兆ウォン超の公的資金を注入。1企業に対する救済としては過去10年以上で最大となる同措置にもかかわらず、韓国の造船セクターは依然低迷し続けている。

<組合と失業>

大統領府は今週、GMが工場を閉鎖しようとしている群山市を、影響を受ける労働者が経済支援を受けられる「雇用危機地域」に指定することを明らかにした。

GMは韓国にいる全従業員約1万6000人に対し、依願退職プログラムの提供を始めた。

また、GMが韓国から完全撤退した場合、同社のサプライチェーンにもその衝撃は波及し、国内に14万人いるサプライヤーや下請け業者もリスクにさらされる恐れがある。

「文在寅大統領がこの問題を適切に解決することができなければ、雪だるま式に悪化して、もっと大きな問題となって大統領自身に跳ね返ってくるだろう」。閉鎖が検討されているGMの富平(プピョン)工場で7年働くベテラン従業員のLee Young-suさんはこう話す。「文在寅政権は、雇用を創出するのと同じくらい、雇用を守るべきだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中