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中国共産党のキングメーカー、貴州コネクションに注目せよ

2017年7月27日(木)11時30分
トリスタン・ケンダーダイン(大連海事大学行政学講師)

今秋に政治局員に昇進する可能性が高い趙克志(チャオ・コーチー)河北省党委書記は、12~15年まで貴州省トップを務めた。その直後、規律違反で摘発された河北省の前書記周本順(チョウ・ペンシュン)の後を受けて現在の地位に就任。栗の貴州省党委書記時代には、その下で省長を務めたこともある。

趙の後任だったのが、新たに重慶市党委書記に抜擢された陳だ。習がかつて書記の座にあった浙江省でキャリアを積んだ陳は、習に忠誠を誓う集団「之江新軍」の代表格になった。

貴州時代の陳の配下には、習体制後の第6世代の指導部を担うと目される優秀な人材がいる。その1人が、貴州省の省都・貴陽市の党委書記だった陳剛(チェン・カン)だ。

陳剛は13年、情報通信部門を通じて貴州の産業発展を促すことを目的に、データセンター建設という使命と共に貴陽へ送り込まれた。北京市朝陽区長だった頃、中国のシリコンバレーと呼ばれる中関村に関わった経験を買われてのことだ。

出世街道をひた走る陳剛はいずれ北京へ呼び戻され、22年には政治局員レベルに昇格するだろう。その彼が貴州の発展を実現するに当たって立てた戦略が、開発が先行する他省をテクノロジーの力で追い抜くことだ。

それまで貴州で試されてきた政策は橋の建設や農業工業化に重点を置いていた。だが2人の陳の下でインターネット分野にシフトし、貴陽はビッグデータの中心地に変貌しつつある。

【参考記事】世界と中国人が越えられないネットの「万里の長城」

「政策実験場」の重要性

今や地元経済のカギは、沿海部の経済特区の業務を請け負う科学技術施設だ。国家的開発区である貴安新区や中関村貴陽科技園は、国内出荷および貴州への外国直接投資(FDI)の約2割を占めている。中国の経済政策の在り方、さらに地方部で党指導部候補の能力を試す仕組みを理解するには、個々の企業ではなく、こうした国家的経済機関にこそ注目すべきだ。

貴州の技術開発プロジェクトは昨年から始まった第13次5カ年計画において、コンクリート製の箱物を重視した従来政策に代わる存在として位置付けられている。この新たな政策は人材の試金石でもある。有望そうな人物が送り込まれては、経済発展の実現能力を競うのだ。

行政面から見れば、貴州は党中枢の言いなりにならざるを得ない。中央政府にとって貴州は都合のいい実験場。失敗しても自らの正統性や能力に傷が付く心配なしに政策を試せる。

FDI、工業生産、産業地区に基づく経済成長は東アジアの開発・統治モデルの基本的特徴となってきた。だが地方を政策実験場とし、そこで失敗してもおとがめなし、成功すれば大出世という形態は中国ならではだ。

となれば、孫の罷免と陳の抜擢は驚くべきニュースではない。注意深い中国ウオッチャーなら、後任に陳が選ばれることは分かり切っていた。貴州は国内で最も貧しい省の1つではあっても、党のヒエラルキーの上層を目指す者が必ず通過する実力試しの場なのだから。

産業構造、そして産業クラスターと政治権力の絡み合い――中国の政局を理解したければ、この2点に注目することだ。

ニューズウィーク日本版7月25日発売最新号より掲載>

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