最新記事

フランス政治

仏議会選に向けて右旋回を目指すマクロンの試練

2017年6月5日(月)10時00分
ジョシュ・ロウ

社会党色の払拭がカギ

マクロンから独立した選考委員会が左右両陣営、さらには新人と経験者のバランスを見計らいつつ候補者の選定を進めた。マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請。元女性闘牛士のマリー・サラ、長髪の数学者セドリック・ビラニといったタレント候補もリストに含まれる。

選考委員会はリストから外したバルスにも配慮し、彼の出馬する選挙区には対立候補を立てないと発表した。

新党がフランス政界に新風を吹き込むのは確かだが、候補者選びをめぐるゴタゴタは政権を担える政党を即席でつくる危うさを印象付けた。

大統領選でマクロンと共闘した中道政党「民主運動」のフランソワ・バイル党首は、REMからの出馬を希望した自党のメンバーが候補者リストにわずかしか入っていないことに激怒した。さらにラグビークラブ・トゥーロンのムラド・ブジェラル会長をはじめ、立候補を希望していないのに勝手にリストに入れられた人もいた。

だが候補者選びは序の口で、マクロンの新党がクリアすべき最も重要な課題は中道右派の共和党支持者の票を取り付けることだ。共和党支持者の多くは大統領選ではマクロンに投票したが、議会選では共和党候補に入れる確率が高い。

【参考記事】もう1人の極右ルペン「政界引退」は本当か?

世論調査会社イプソスの調べでは、大統領選の第1回投票で共和党候補のフランソワ・フィヨンに投票した人の48%が、フィヨン敗退後の決選投票ではマクロンに投票した。しかし彼らの多くは思想的には右派で、マクロンの新党の左派色を警戒している。

元共和党の選挙参謀で、2月にマクロン陣営に加わったジェローム・グランデスノンによると、REMがバルスの公認を見送ったのは右派の票を重視したからだ。マクロンがオランド政権の経済相だったこと、大統領選の序盤では社会党の支持をバネに有力候補にのし上がったこともあって、マクロンの新党は社会党の影響が強いとみられがちだ。議会選で勝つにはそのイメージを払拭する必要がある。

「マクロンにとって最も危険なのは、新党が新しい左翼政党とみられることだ」と、グランデスノンは言う。 

既成政治と一線を画すアウトサイダーとして大統領選に勝利したマクロン。就任後の数週間で政権運営につまずけば、彼の改革に対する国民の期待は急速にしぼむだろう。

「決められない政治」で改革のチャンスをつぶし、再選を断念したオランドは「やり残したことが山ほどある」と言って、マクロンにバトンを渡した。

オランドの無念を晴らせるか。まずは議会選が正念場になる。

[2017年6月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中