最新記事

アフリカ

援助団体から大金徴収で弱者を殺す南スーダン政府

2017年3月10日(金)18時18分
ロビー・グラマー

国連の援助物資を求め女性と子供が列をなす Siegfried Modola-REUTERS

<財政もピンチの南スーダンは、援助従事者のビザ料金を引き上げて財源の穴埋めをしようとしている>

内戦状態が続いて容赦のない暴力や民族浄化、そして飢饉に悩まされているアフリカの南スーダンで、政府は海外からの援助関係者に労働ビザの対価として1万ドルを支払わせる考えだ。

豊かな欧米人や国際援助機関から料金を徴収して厳しい財政の穴埋めに使うと、政府関係者は言う。しかし国際援助機関は、そんなことをすれば本当に支援を必要としている人々に援助が届かなくなり、多くの人の命を奪うことになりかねないと言う。

労働省は声明で、同国内で援助に従事する外国人の専門職に1万ドル、「ブルーカラー」に2000ドル、「カジュアルワーカー」に1000ドルを課す計画だとした。

従来は、外国人の援助活動従事者の労働ビザは100ドルだった。

援助団体Humanitarian Practice at InterActionのジュリアン・スコップ理事は、ビザの値上げについて「世界的に例がない」と語った。「こんなに高いお金が払える援助団体はないし、資金支援者に追加出資を頼みに行っても渋い顔をされる。なぜならこれは、一種の身代金だからだ」と米公共放送ナショナル・ パブリック・ラジオ(NPR)に語った。

【参考記事】民族大虐殺迫る南スーダン。国連安保理の武器禁輸措置決議になぜ日本は消極的なのか

身代金という連想には十分な根拠がある。援助機関は、自分たちが南スーダン政府や反政府組織のターゲットになりつつあることを懸念している。政府軍は今年8月、外国人が集まる場所を襲撃。援助団体職員や地元のジャーナリストを集団レイプし、殴り、殺害した。生存者によれば、兵士たちの標的はアメリカ人だったと言う。

【参考記事】南スーダンで狙われる国連や援助職員
【参考記事】住民に催涙弾、敵前逃亡、レイプ傍観──国連の失態相次ぐ南スーダン

国連は2月、南スーダンの一部地域で飢饉が発生したと宣言した。約10万人が「すでに飢えた」状態で、500万人が危機にさらされている。国連食糧農業機関(FAO)のセルジュ・ティソ南スーダン駐在報道官は「我々の最悪の懸念は的中した」と語る。米国務省のマーク・トナー報道官は、この危機的状況は2013年から続く内戦が招いた「人為的」なものだと述べた。

【参考記事】南スーダン飢饉を防げなかった国際社会

この内戦のため、援助団体職員が食糧などの援助物資を配布することがより困難になった。同国内の国連の物資は乏しく、高いビザ料金のせいでNGOの援助が減れば、はるかに悪化する可能性がある。

ノルウェー難民評議会(NRC)のジョエル・チャ―ニー理事長はガーディアン紙に対し「誤った時に誤った措置だ。それがもし効果を出せば、最悪のタイミングになることは明らかだ」と語った。

政府は2016年11月、NRCの前理事長を一切の説明もなく国外退去にした。それでもNRCは活動を続けている。

新料金の適用にはまだいくつか署名が必要になる。だがこの提案自体が、すでに悪名高い南スーダンの国際的評価をさらに下げてしまった。

「こんな提案を真に受ける政府だ、というだけでも既に心配だ」とチャ―ニーは言った。

【参考記事】【南スーダン】自衛隊はPKOの任務激化に対応を――伊勢崎賢治・東京外国語大学教授に聞く

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中