最新記事

2016米大統領選

クリントン当選を予想していた世論調査は何を間違えたのか

2016年11月9日(水)20時44分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

この調査会社の事前予想ではクリントンが勝率71%、トランプが29%だった FiveThirtyEight

<大統領選当日、「データは死んだ」と、アメリカのある政治アナリストは完敗を認めた。だが予想を外したのは彼だけではなく、ニューヨーク・タイムズもハフィントン・ポストも同じだ。原因の一つは、トランプのような人間を認めない傲慢さだったかもしれない。その傲慢さのために、アメリカは昨日までとは違う国になってしまった>

 米大統領選当日の夜、バラク・オバマ大統領はビデオメッセージでこう国民に語りかけた。

「何が起きても、朝になれば太陽が昇り、アメリカは地球上で最も偉大な国であることに変わりはない」

 だがそれは間違いだった。大統領選の勝者は共和党候補のドナルド・トランプであることが明らかになり、多くの人にとってはまさに世界がひっくり返ったのだ。ほとんどのメディアや調査会社は、民主党候補のヒラリー・クリントンの勝利はほぼ確実だと伝えていた。一体何が起きたのか。

 共和党系のベテラン政治アナリストでトランプへの不支持を公言していたマイク・マーフィーは、ツイッターに投稿した。

「30年間、選挙分析のデータは正しいと信じてやってきたが、データは今夜死んだ。今回の選挙についてはこれ以上ないほど間違った」(注:このクオートを訂正しました)

 選挙分析に定評のあるサイト「ファイブ・サーティー・エイト(538)」は日本時間水曜午前6時の段階で、クリントンが勝利する確率を71.4%としていた。ところが午後12時頃にはトランプが勝つ確率が75%以上と完全に逆転してしまった。

 ファイブ・サーティー・エイトのカール・ビアリクは速報ブログでコメントした。




We gave Trump a 27 percent chance of winning the election in our final forecast. Other  forecasters gave him a much smaller chance -- as low as 1 percent. Some people have raised the possibility of complacency among Democratic voters. There certainly seems to have been some among Democratic elected officials. Last week, Kate Nocera of BuzzFeed talked to some who said they basically had no plan for how to deal with a Trump presidency. "It's never talked about in much depth or detail because the guy is such a joke," U.S. Rep. Marc Veasey of Texas said. "We can't fathom it and therefore are not planning for it."

我々の最終の予測では、トランプ勝利の確率は27%だった。他社では1%という予測もあった。この背景には民主党の支持者が油断した可能性が指摘されている。先週、バズフィードの取材でトランプ政権になった場合の対応を尋ねられたテキサス選出で民主党の下院議員マーク・ヴィージーはこう言った。「そんなこと深く考えたことなんてない、あの男はジョークみたいなものだから」(午後1時39分)

 他にも、トランプが激戦州のフロリダを制した要因についてヒスパニック有権者のトランプ支持が予想を上回るなど、予想外の投票行動が目立ったと釈明した。だが予測を外した原因の総括には、もう少し時間がかかりそうだ。

トランプの政治運動を過小評価

 ニューヨーク・タイムズ紙では、投票が締め切られる直前の時点で、84%の確率でクリントンが勝つと予想。だがそのわずか数時間後にはトランプが勝利する確率が93%とひっくり返った。
 
 同紙の紙面を批評する立場のメディエーター・コラムニストのジム・ルーテンバーグは、選挙期間を通じてクリントンの勝利が確実だと伝えてきたメディア報道のあり方を批判。現実に起きる可能性があった政治のシナリオを示さなかったのはニュースメディアの「失態」であり、ジャーナリズムの「崩壊」だと手厳しい。

 ルーテンバーグは選挙分析が外れたのは必ずしも実態を反映しない電話調査などの手法にも欠陥があったと指摘したうえで、最大の問題はメディアが「世界中で巻き起こる反エスタブリッシュメントの空気を読めていない」ことだと述べた。「トランプが大統領選への立候補を表明した当初からトランプの高い得票力や彼の政治運動を過小評価した」メディアは、なぜ群衆が彼をそこまで支持するのかを追求せず、生身の人々の状況から目をそらした結果に今、直面しているのだという。

 ニュースサイトのハフィントン・ポストも、クリントンの勝利がほぼ確実だと押していたメディアの代表格だ。選挙分析を担当したナタリー・ジャクソンとアリエル・リーバイはトランプの勝利を受けて次のように述べた




Claims that there was a "silent majority" or "shy Trump" voters can't be ignored. If those are indeed where the polls missed, it's time to take a good, hard look at surveys' extremely low response rates, as well as how we locate voters. And we'll want to look at the effects of voter identification laws and voter registrations being purged as well.

「無口な多数派」や「シャイなトランプ支持者」が存在したという意見は無視できない。もし本当にそのような原因で予測を外したのなら、回答率が極めて低い世論調査の問題点や正確に有権者を割り出す方法を綿密に見直す必要がある。投票のために身元証明書の提出を求めたり(貧しい人には運転免許証のようなIDがない場合も多い)、(刑務所に入るなどして)有権者登録が末梢されたりすることの影響も見極めたい

(注:最後の文章は訂正しました)

 事前の予想を完全に覆すトランプの劇的勝利は、世論調査の信頼性を根本から揺るがすものだ。なにより、データを疑わなかったニュースメディアと大衆の間には、決定的な亀裂が存在することを浮き彫りにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、S&P500年末予想を5500に引き上げ

ビジネス

UAE経済は好調 今年予想上回る4%成長へ IMF

ワールド

ニューカレドニア、空港閉鎖で観光客足止め 仏から警

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中