最新記事

オピニオン

ロンドン独立は無理でも「一国二制度」なら可能?

2016年6月27日(月)16時37分
リチャード・ブラウン(センター・フォー・ロンドン研究ディレクター)

Neil Hall-REUTERS

<イギリスのEU離脱が決まった直後から一部の要求が高まっているのが単一市場に残留するための「ロンドン独立」。さすがに事はそう単純ではないが、中国と香港の例に見習って「一国二制度」とはいかないだろうか>

 国民投票でEU離脱の結果が出た後、スコットランドとロンドンが独立するという噂がソーシャルメディアを席捲するまでほとんど時間はかからなかった。先週金曜の午後までには、ロンドンの独立を求める嘆願書には6万人の署名が集まった。

 スコットランド行政府のニコラ・スタージョン首相とロンドンのサディク・カーン市長は、イギリス政府が離脱の条件をEUと交渉する際には、自分たちも参加すると主張した。ロンドンは、単一市場に残らならなければならないとカーンは言った。

【参考記事】英EU離脱に憤る若者たち: でも実は若年層は投票しなかった世代

 ロンドン独立というアイデアは表向きは魅力的だ。60対40の割合で残留支持が上回ったロンドン住民は、国際色豊かで、3人に1人は外国生まれ。GDPはスウェーデン一国に匹敵する。イギリスの12%の人口でGDPの22%を稼いでいる。そして毎週、6億7000万ドルの財政黒字を上げている。いざとなればロンドン独立の原資となる資金だ。

ロンドンは都市国家ではない

 だが現実はもっと複雑だ。ロンドンは、ルネッサンス期のベニスや古代ギリシャのアテネのような都市国家ではない。ロンドンの経済社会はイギリスと不可分に結びついている。残留に投票した多くのロンドン子は生まれも育ちもロンドンではなく、イギリス中からやってきた人々だ。

【参考記事】英国EU離脱。しかし、問題は、移民からボティックスへ

 各地の労働市場は密接に結びつき、通勤が増えている。労働人口の14%にあたる79万人が、ロンドンを取り巻く町や国から通勤してきている。

 住民の半分がロンドンに住んだ経験をもつブライトンのように、ロンドンと密接な結び付きをもった町もある。ブライトンのカフェに座っているウェブ・デザイナーやマーケティング専門家の顧客は、たいていロンドンにいる。ロンドンを拠点にする企業もいくつかの市で全従業員の20%を雇用している。たとえばJPモルガンはボーンマスで4000人を雇用している。

 従って、機能面から見たロンドンはそれ自体よりはるかに広い。だがロンドンは、EU離脱を支持すると投票したロンドン住民の40%を無視して勝手なことはできないのだ。これらの住民は、せっかくEUを出たのに、また入り直すことは望まないはずだ。

【参考記事】イギリスは第2のオーストリアになるのか
 
 それでも、ロンドンがイングランドのなかで浮いているのは明らかだ。若くてバックグラウンドも多様で学歴も高いロンドンの有権者は、過半数が残留に票を投じた。金融街シティーも企業も単一市場に残りたがった。もしスコットランドと北アイルランドのために新しい妥協が図られるなら、ロンドンだけがだめというのはおかしい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

原油先物は下落、米高金利の長期化が需要圧迫との懸念

ビジネス

豪消費者信頼感、5月は前月比0.3%低下 政府の物

ワールド

トランプ氏が起訴取り下げ要求、不倫口止め裁判

ビジネス

米デル、AI対応製品の品揃え強化へ 新型PCやサー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中