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朝鮮半島

【弔電】南北統一の夢(1998-2013)

北朝鮮の度重なる挑発で最悪の状態にある南北関係にはどんな将来が待っているのか。「太陽政策2.0」がないことだけは確かだ

2013年4月10日(水)15時03分
ジェフリー・ケイン

太陽は沈んだ 非武装地域への道を進む臨戦態勢の韓国兵たち Kim Hong-Ji-Reuters

 北朝鮮は、南北協力事業である開城工業団地から労働者を撤収させた。韓国と北朝鮮の非武装地域から北にある開城工業団地では、韓国人マネージャー数百人が5万人以上の北朝鮮労働者を管理している。今回の措置は、少なくとも現時点では、平和的統一の希望に「別れ」を告げるものだ。

 90年代末に朝鮮半島は和解に向けて歩み、南北統一の可能性すら考えられた。北で100万人が死亡したとされる飢饉や、共産主義政権の現状維持能力に弱さを見た外交官や記者たちの間では、楽観的な空気が漂っていた。

 北に対する楽観的な姿勢は賛同者の間で「太陽政策」と呼ばれた。04年に操業開始された開城工業団地は、そんな動きの産物で、その後の協力のモデルになるべく始まった。

「太陽政策」は、後にノーベル平和賞を受賞する金大中(キム・デジュン)大統領と北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記との、平壌での歴史的な南北首脳会談で最高潮に達した。人は金大中を、アジアのネルソン・マンデラと呼んだ。

 だが批評家たちは、本当の進展を望むのは甘い考えで、北朝鮮は政府を肥やすための支援と譲歩を得ようと、韓国と戯れているだけに過ぎないと指摘した。その見方は正しかったのか?

 08年、韓国に保守的な李明博(イ・ミョンバク)大統領が誕生すると、北という敵への支援や気配りを止めた。北朝鮮は激怒し、それ以降、2度の核実験を行い、韓国西岸地域で哨戒艇沈没事件と延坪島砲撃事件という2度の攻撃を実施した。

時代遅れの太陽政策

 今、開城工業団地から労働者を撤退させるという北朝鮮のかつてない決定によって、南北関係は最悪の状態にある。先週、この決定の前には北朝鮮が同団地に勤務する韓国人の立ち入りを認めない方針を発表していた。

 国際社会がその方針を深刻に受け取らなかったことで、北朝鮮の指導者たちは憤慨し、北朝鮮は開城工業団地からの利益を必要としていると言う韓国の主張を、国営メディアを通して非難した。北朝鮮はそんな利益を必要としないほど強い国だと言った。

 北朝鮮は開城工業団地は必要ないと主張しようとしているだけかもしれない。もしくは、先月からの脅迫を行動で示そうとしているのかもしれない。

 ここ数時間、韓国の多くの北朝鮮専門家はこう疑問を投げかけている。「太陽政策2・0」はあり得るのか? 自縄自縛の発言と困窮する経済を背景として北朝鮮政府があまりにも深刻な状況に陥ったら、韓国が再び北朝鮮に手を差し伸べる可能性はあるのか?

 もちろん孤立した北朝鮮の未来は推測の域を出ない。冷戦の終結直後から北朝鮮の崩壊を予測し続けてきた専門家らに聞いてみるといい。ただ韓国の一般認識では、概ね「太陽政策」はもう時代遅れだと見られている。

 太陽に別れを告げ、禍根も残したがかつては評価もされた金大中の遺産に別れを告げるときだ。


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