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事故、病気、離婚......元ホームレス女性が社会の影を案内する「町ツアー」

2019年12月26日(木)17時45分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

チューリヒの町を案内するサンドラ・ブリュールマンさん Photo: Marc Bachmann

<一般的なイメージとは裏腹に、スイスにも貧困やホームレスの問題が存在する。そんな人たちを支援するために2013年、ある取り組みが始まった>

豊かに暮らせる国として知られるスイスは、物価は高いものの経済は安定し、社会保障は充実し、自然環境に優れている。そんなスイスにも、ホームレスはいる。町なかで見かけることはあまりないが、ホームレスの人や以前そうだった人の様子を、メディアが伝えている。

全国のホームレスの数は、把握なし

ホームレスの人たちは屋外のどこかで就寝している。自治体や民間の施設で、無料で飲食し、洗濯し、シャワーを浴び、ネットさえも使うことができる。

彼ら・彼女らが働けなくなった理由は、バーンアウト、失業、事業の失敗(破産)、事故や病気、離婚やパートナーとの別離、酒や薬物やギャンブルに依存など人それぞれだ。十分な収入がないと住居を失うことになり(スイスは約6割の人が賃貸住居に住む)、住居がないと定職も見つからず悪循環に陥る。

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ブリュールマンさんがホームレスになる前に暮らしていたアパート。10代半ばから日常的に飲酒。失業でうつ状態になったときに処方された精神薬リタリンの副作用で、幻覚に悩まされた Photo: Surprise

スイスにはワーキングプアを含めた貧困者の統計はあるが、ホームレスに限定した全国的な統計はない。今春発表された全国初の本格的な調査は、スイス第3の都市バーゼル市(人口20万人)のホームレスの数を浮かびあがらせた。バーゼル市には、約100人(50人が屋外生活、50人が緊急一時宿泊所滞在)のホームレスがいるという。このほか、約200人が、住む家はあるが自分自身では契約していない(一定期間、公的支援制度のアパートに入居したり、友人・知人宅に住んでいる)ハウスレスという結果だった。

【参考記事】ノーベル経済学賞受賞「実証的手法で貧困と戦う」3人への称賛と批判

珍しい「町ガイド」で、時給2800円を稼ぐ

バーゼル市に本部を置く人道支援団体スープリーズは、ホームレスやハウスレスを様々な形で支援している。同団体の主要援助は隔週刊の雑誌の路上販売で、ホームレスやハウスレスの人たちは、1冊売るたびに約300円の収入を得ることができる。

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隔週刊の雑誌『Surprise』。1冊約650円。ブリュールマンさんとほかの女性ガイドとの座談会も掲載になった Photo: Satomi Iwasawa

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