最新記事

文学

8月5日に他界した、巨人トニ・モリスンが私たちに問い掛けたこと

2019年09月04日(水)17時30分
テッサ・ロイノン(オックスフォード大学研究員)

それは今も変わっていないのかもしれない。いまだに「純文学」のカテゴリーにモリスンの作品を分類することに抵抗を感じる人たちもいる。

モリスンは以前、あるイベントでこう述べたことがある── 私の作品は大学のアフリカ系アメリカ人文学科や社会学科、時には法学部でも取り上げられるが、一流大学の英文科では扱われない、と。

モリスンは、自らの著作がどう読まれ、どのように理解されたり誤解されたりしているかという点に、常に注意を払い続けた。

そして社会批評家としては、13~14年に白人警察官による黒人射殺事件が相次ぎ、抗議活動が勢いを増すよりはるか前に、アメリカで人種に基づく暴力が激化することを予見していた。いまトランプ時代に人種差別が再燃している状況も、まさにモリスンの予測したとおりだ。

18年には、モリスンの思想を取り上げた『外国人の家』というドキュメンタリー映画が発表されている。この中でモリスンは、奴隷船で無理やり運ばれてきたアフリカ人の心の傷、05年に巨大ハリケーン「カトリーナ」で被災したニューオーリンズの黒人住民の苦しみ、そしていま世界で起きている難民危機の類似性を論じている。このような視点こそ、トニ・モリスンという偉大な作家が未来に残す不朽の業績だ。

モリスンは『外国人の家』の中で、未来を決めるのは私たち一人一人だと訴えた。これは数々の小説の中で間接的に主張し、ノーベル文学賞の受賞記念講演でも述べていることだ。


20190910issue_cover200.jpg
※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。

[2019年9月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確

ビジネス

米国株式市場=上昇、FOMC消化中 決算・指標を材

ビジネス

NY外為市場=円上昇、一時153円台 前日には介入

ワールド

ロシア抜きのウクライナ和平協議、「意味ない」=ロ大
今、あなたにオススメ

RANKING

  • 1

    メーガン妃が立ち上げたライフスタイルブランド「ア…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    「女性と少女の代償が最も大きい」...ソフィー妃がウ…

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 1

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 4

    「見せたら駄目」──なぜ女性の「バストトップ」を社…

  • 5

    「自由すぎる王族」レディ・アメリア・ウィンザーが「…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 3

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 4

    キャサリン妃とメーガン妃の「本当の仲」はどうだっ…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が愛した日本アニメ30

特集:世界が愛した日本アニメ30

2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている