最新記事

ヘルス

今改めて問う、日本独自の概念である「生きがい」って何?

2020年12月28日(月)11時19分
前田 展弘(ニッセイ基礎研究所)

仕事や子育てから解放されて生まれる余裕をプラスに生かせるか? kumikomini-iStock.

<健康を維持するには運動や食事に気をつけるばかりでなく、心を元気にしてくれる楽しみを持つことも不可欠>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年11月26日付)からの転載です。

Q1. 人生を"より良く"生きていく上で、「生きがい」は必要だと思います。ただ、改めて考えると生きがいとは何でしょうか?


■"生きがい"の概念は多様

一般に"生きがい"とは、「生きるはりあい」、あるいは「しあわせを感じるもの」、「生きる価値や経験を実現できるもの」と考えられています1。ただ、概念は非常に曖昧で必ずしも定見が定まっているとは言えません。国際的に見ても日本独自の概念と言えます。この言葉が頻繁に使われるようになったのは、日本が経済的な豊かさを達成した20世紀後半からで2、これまで様々な識者から次のような捉え方等が述べられています。

古くは1970年当時、見田(1970)は生きがいを構成する条件として、(1)極度の貧しさからの解放、(2)未来とのかかわりのなかで、現在の生が意味づけられること、(3)人びととのつながりのなかで自分の生が意味づけられること、(4)「つながり」と「未来」の媒体としての仕事をもつことの4つを挙げています3。

藤原(1972)は、(1)未来に開かれたもの、(2)自我の中心に迫るもの、(3)価値に関係する欲求であるもの、(4)使命感を含んでいるものに分類して考察しています4。

柴田(1998)は、高齢者のQOL(Quality of Life)を考える際に重要な概念であると考え、「生きがいとは、従来のQOLに何か他人のためになる、あるいは社会のために役立っているという意識や達成感が加わったものである」として、生きがいの枠組みを試案しています。そして、「生きがい」の英語訳として、going beyond selfあるいはsamaritans、altruismという用語があるとしながらも、「生きがい」という用語は、日本人の文化や価値観にもとづく独自なものとして、外国においても「イキガイ」として使用してもらうのがよい、としています5。

Nissei_Lifestyle1.jpg

青井(2003)は、生きがいの条件について、客体的条件、主体的条件と分けるなかで、さらに第1次的条件(不幸の解消)、第2次的条件(安定の維持)、第3次的条件(幸福の増進)を区分し整理しています6。

Nissei_Lifestyle2.jpg

以上に留まらず、生きがいという概念に関する見解は様々あり、時代とともにそれに含まれる要素も変わってきている面があります。なお、広辞苑では生きがいを「生きるはりあい。生きていてよかったと思えるようなこと」と記載されています。

────────────────
1 長嶋紀一(日本大学文理学部教授)「高齢者の生きがいとQOLに関する心理学的研究」(『生きがい研究(第8号)』、財団法人長寿社会開発センター、2002年)より
2 袖井孝子(お御茶の水女子大学名誉教授)「老後の設計~画一性から多様性へ」(『生きがい研究(第8号)』、財団法人長寿社会開発センター、2002年)より
3 見田宗介「現代の生きがい」(日経新書、1970年)より
4 藤原喜悦「生きがいの創造」、『現代青年の意識と行動』(大日本図書、1972年)より
5 柴田博「求められている高齢者像」、東京都老人総合研究所編『サクセスフル・エイジング』(ワールドプランニング、1998年)より
6 青井和夫他編『生活構造の理論』(有斐閣、2003年)より

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中