最新記事
話題作

「デューン 砂の惑星PART2」の続編としての見事な成功と、見終わった後に沸き上がる「ある感情」

Exploring the “Duniverse”

2024年3月15日(金)17時00分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

newsweekjp_20240314034000.jpg

荒涼としたアラキスに生息する砂虫サンドワーム ©2023 LEGENDARY AND WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

ハルコンネン家の故郷の惑星で行われる古代ローマ時代のような闘技会は、レニ・リーフェンシュタール監督によるナチスの記録映画を想起させる。あり得ないほど広大で幾何学的な闘技場で命懸けの戦いが繰り広げられるなか、白亜色の空に黒い花火がインクの染みのように炸裂する。

共同で脚本を手がけたビルヌーブとジョン・スペイツは、並行する物語軸をうまくペース配分している。ただし、ストーリーが大きく動く舞台は、アラキスの砂漠だ。ポールは第1部で自身の夢に断片的に登場していたフレメンの戦士、チャニ(ゼンデイヤ)と共にハルコンネン家と戦い、2人はやがて恋に落ちる。

『スター・ウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカーと同じく、未熟な若者のポールは古くからの「預言」に導かれ、宇宙戦争で重大な役割を果たすことになる。だが、孤児でよそ者のルークと異なり、特権階級に生まれたポールは幼い頃から統治者になるべく教育されてきた。

少年時代のポールを違和感なく演じる28歳のシャラメもまた、この役のために生まれてきたかのようだ。彼は、暗い面に踏み込むべき役柄に説得力を持たせられないと批判されがちだ。そのいい例が、人間嫌いのウィリー・ウォンカの若き日を無邪気に演じた『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』だ。

だが『君の名前で僕を呼んで』のように役とうまくかみ合ったときには、シャラメ以外が演じることなど想像できなくなる。ポールとしてのシャラメは、ためらうことなく自らの暗部と向き合っている。

「救世主」をめぐる問い

1965年にシリーズ第1作が発表された原作小説は、数々の試みにもかかわらず、長らく映像化不可能とされてきた。原作を読んでいない筆者は映画版(異才監督アレハンドロ・ホドロフスキーが、映画化に失敗した過程を描くドキュメンタリーを含む)を全て見ただけだが、原作の独自性をスクリーンで完全に再現するのは無理だとファンが口をそろえるのは理解できる。

それでもビルヌーブ版は、独自の「デュニバース」という宇宙が持つ重要な要素を効果的に伝えている。例えば、壮大な世界観や独裁についての真剣な考察、宗教運動の危険性、孤高の(ほぼ常に白人で、男性の)ヒーローが運命によって、抑圧された(大抵は非白人の)人々の救世主になるという定型の拒否だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、西側との戦いに応じる用意 外相がウクライナ

ワールド

アムステルダム大学、警察が反イスラエル活動を排除

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、指数寄与度大きい銘柄に買

ビジネス

野村HD、2030年度の税前利益5000億円超目標
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中