最新記事

音楽

「美しいもの」を遺したロックンロールの女王、ティナ・ターナー──卓越した才能と技術

A Singer’s Singer

2023年5月29日(月)13時20分
リー・キャリッジ(豪サザン・クロス大学上級講師、シンガーソングライター)
ティナ・ターナー

60年代から半世紀以上、比類なき歌唱力で世界を圧倒したターナー PAUL BERGENーREDFERNS/GETTY IMAGES

<パワフルな歌とパフォーマンスで音楽界に君臨したティナ・ターナーの異才を偲ぶ>

プロアマを問わず、ティナ・ターナーの名前を聞いて畏敬の念を覚えない歌手はいないだろう。

【動画】ティナ・ターナー「いつまでも美しいもの」

ターナーは歌手の中の歌手、数々の名曲を生んだソングライターにして最高のダンサーだった。ローリングストーン誌の「史上最も偉大なアーティスト100組」に選出されるにふさわしい、究極のエンターテイナーだった。

ターナーが83歳でこの世を去ったのは5月24日のこと。私は悲しみの中で、あの迫力のボーカルと人を虜(とりこ)にするエネルギー、圧巻のステージパフォーマンスを思いつつ、ターナーの曲を口ずさんだ。

代表曲の「プラウド・メアリー」や「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」のほか、「ナットブッシュ・シティー・リミッツ」も歌った。テネシー州の田舎町で過ごした子供時代をノスタルジックに振り返るナンバーだ。

私がターナーの音楽と出合ったのは1980年代半ば。当時、彼女は「愛の魔力(Whatʼs Love Got to Do With It)」や「レッツ・ステイ・トゥゲザー」など、ヒットを連発していた。

その才能とパワーに打たれた私は過去の作品を片っ端から聴き、ソウル、ファンク、そしてロックンロールを取り入れていった60年代の曲に夢中になった。

20代の頃は歌手としてターナーのレパートリーに挑戦したが、体力的にも技術的にも歯が立たなかった。

あのパフォーマンスは控えめに言っても至難の業。完璧な音程とリズムを保ちつつ息をコントロールし、1曲また1曲とダイナミックに歌い続けるだけでもすごい。そこに複雑で激しいダンスが付くのだから、まさに異次元だ。

ターナーのステージはすさまじい努力と途方もないバイタリティーのたまものだった。

試しにカラオケで歌ってみるといい。彼女の曲がどれほど高度なテクニックを必要とするか、すぐに分かるから。

人間の強さを歌い続けて

どんな歌手にとっても、他人の曲を歌うのは難しい。世界にあふれるあまたの名曲から、ターナーは自分が物にできる曲を厳選してカバーした。オリジナルはターナーだとリスナーが勘違いするほど、どの曲も完全に作り変えた。

なかでも「雨に打たれて」(オリジナルはアン・ピーブルズ)や「ザ・ベスト」(ボニー・タイラー)のカバーバジョンは素晴らしい。

ソングライティングの才能はあまり知られていないかもしれないが、よく練られた歌詞は技術と思慮深さをうかがわせた。

72年の『フィール・グッド』は、10曲中9曲がターナーの作詞作曲だ。また73〜77年のアルバムは、彼女が全面的に作曲を手がけた。

オリジナルでもカバーでも、ターナーは人間の強さや愛のさまざまな側面を歌った。ステージ上だけでなく、最初の夫の暴力に苦しんだ私生活でも、深い精神性と逆境に負けないたくましさを見せつけた。

96年に56歳で発表したアルバム『どこまでも果てしなき野性の夢』に、「いつまでも美しいもの」なる1曲が収録されている。

「どんな命も美しいものを残して消えていく」という歌詞が、ターナーの訃報には悲しくもぴったりだ。

The Conversation


Leigh Carriage, Senior Lecturer in Music, Southern Cross University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中