最新記事

坂本龍一

「YMO第4の男」松武秀樹が語る、坂本龍一『千のナイフ』制作秘話

A GROOVE MASTER PASSES AWAY

2023年4月12日(水)13時20分
澤田知洋(本誌記者)
1980年10月、ロンドンでのYMOのライブ

機械と人が生み出すグルーブで世界が揺れた。写真中央奥が松武(1980年10月、ロンドンでのYMOのライブ) FIN COSTELLOーREDFERNS/GETTY IMAGES

<YMO以前から親交のある松武秀樹が語った、伝説的バンドの音作りと若き坂本龍一のテクノロジーへの洞察>

電子音楽の大家、冨田勲に師事して音作りを学び、坂本龍一の初のソロアルバム『千のナイフ』(1978年)やイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の作品制作・ツアーに参加したシンセサイザープログラマー・作編曲家の松武秀樹。「第4のYMOメンバー」と呼ばれる松武に、坂本との交流について本誌・澤田知洋が聞いた。

◇ ◇ ◇


――坂本さんとの初対面は?

本格的に一緒に仕事を始めたのは『千のナイフ』だけど、初めて会ったのはその2~3年前。坂本さんはスタジオミュージシャンとして歌手りりィさんのキーボーディストをやっていて、りりィさんのコンサートのオープニングの鐘の音をシンセサイザーで作ってくれという依頼が僕にあった。坂本さんはボソボソと話す長髪でサンダル履きの人、という印象だった。

坂本さんもシンセサイザーでの音作りの原理は知っていたから、ある程度は僕が作ってその後、坂本さんが微調整して自分が望む音を作っていった形。後のYMO時代の仕事もそのような流れだった。

――『千のナイフ』へ参加の経緯は?

当時ローランド製の自動演奏機MC-8を国内で持っていたのは僕と冨田先生ともう1人ぐらい。誰にでもご提供しますよ、というのが僕だったので『千のナイフ』にシンセサイザーのモーグIII-CとMC-8で参加してくれという話だったと思う。

坂本さんはゼロから作品を構成して最終形に持っていく能力がすごかった。音楽のジャンルを問わず情報を収集して対応できる人で、それはキャリアの最初からそうだった。

『千のナイフ』の録音ではどの曲も全体像はなかなか言葉で説明されず、メロディー抜きのコード進行や構成の説明だけがある状態。だからその場で坂本さんの頭の中にある設計図どおりに順番に録っていくという作り方になる。音符に書けないサウンドエフェクトのような音については言葉と絵での説明があった。坂本さんは絵がすごくうまいんです。

例えば「UFOが飛んで、上空で旋回してまた地上へ下りてくる」みたいな感じの音が鳴るといいねと言って、紙に描いてくれる。言葉で言うのは簡単だけど、坂本さんが頭の中で描く音符に書けないものを、2人でああでもないこうでもないと何時間もかけて作った記憶がある。言葉と音符と、情景の表現。それを音に表すのがうまい方だったなと振り返ってみて思う。

――YMOのレコーディングはどんな様子だったか。

3人ともある程度、譜面で全体像を作ってきていた。ただ譜面上にはメロディーはなくて、コードとリズムのパターンだけ。リズムもやってみて駄目だったらまたすぐ録り直すという試行錯誤を繰り返していった。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中