最新記事

韓国映画

セウォル号事件、フェミニズム...作品性と大衆性を兼備した韓国の社会派映画5選(権容奭)

2021年5月10日(月)20時40分
権容奭(クォン・ヨンソク、一橋大学大学院法学研究科准教授)

magSR20210510k-movies-4.jpg

『地球を守れ』 PHOTOFEST/AFLO

最後は『1987』のチャン・ジュナン監督のデビュー作『地球を守れ』(2003年)。本作は韓国で再評価されるべき作品の筆頭に挙げられる。

大企業の社長が地球征服をたくらむエイリアンだと信じる若者が、彼を拉致監禁する荒唐無稽な設定。ポスターを見てジム・キャリー風の「おバカ」なナンセンス・コメディーかと思いきや、さすがチャン監督らしく、差別と暴力、格差社会と労働者の痛みが背景に映し出される。

終局には人類の起源、暴力的DNAとナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)まで出てくる。一番胸を打つのは、エンドクレジットと共に流れる宇宙を漂流するテレビの中の映像だろう。

韓国映画を一本だけ推すならこの作品だ。SF、サスペンス、コメディー、社会性などジャンルの混用という韓国映画の特徴を持ち、奇抜で唯一無二の作品だからだ。

残念ながら、本作を鑑賞する手だてが少ない。OTT(動画配信サービス)関係者よ、映画史に残るこのB級映画の傑作を世に知らしめ、地球を守れ!

magSR20210510k-movies-profile.jpg

権容奭(Kwon Yongseok)

一橋大学大学院法学研究科准教授。韓国・ソウル生まれ。専門は東アジア国際関係史、日韓関係、韓国現代史。政治、外交、歴史だけでなく映画や音楽、スポーツまで幅広く研究している。著書に『岸政権期のアジア外交』『「韓流」と「日流」』など

(※韓国を飛び出し、世界で支持を広げ続ける「進撃の韓流」――本誌5月4日/11日号「韓国ドラマ&映画50」特集より。本誌では夏までに日本公開される最新映画、注目のドラマも取り上げています)

202104_kiji_k-dramamovie_campaignbanner.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中