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インタビュー

ドリブルデザイナーになり、全てを手に入れた岡部将和は「夢ノート」を書いていた

2021年4月12日(月)16時40分
吉田治良(スポーツライター)

──感謝や思いやりといった人間的な土台があってこそ、サッカーがうまくなる?

もっと言うと、僕はサッカーがうまくなることに、一番の重きを置いていません。本当の勝負は人生ひっくるめてだと思うし、極論を言えば、サッカーで負けても人生で勝てればいい。いま幸せだなって思い続けられることが一番の生きる価値。サッカーやドリブルは、そのためのツールでしかないんです。

──Jリーガーになる、海外に行って成功することが全てではない?

おまけですね。かつてドイツのGKロベルト・エンケは、代表にも選ばれていたのに精神的な病で自ら命を絶ってしまいましたが、どんなに周りから評価をされても、自分自身がそこに喜びや楽しさを感じていなければ、それは幸福とは言えません。

逆に今を楽しめていれば、自然と結果も付いてくるものなんです。

──岡部さん自身、いま「夢ノート」を書くとしたら?

ドリブルデザイナーとして、バロンドール(世界年間最優秀選手に贈られる賞)を取る選手のサポートをしたい。そして、授賞式でその選手の隣に立っていたい(笑)。

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Courtesy Masakazu Okabe

久保選手は「なんの問題もない」、三苫選手は「早く世界へ」

──では、最近注目を集めている若い2人の日本人ドリブラー、久保建英選手と三笘薫選手について、少し聞かせてください。まず久保選手ですが、現在所属のヘタフェではなかなか出番が巡ってきません。壁にぶつかっている印象はありませんか?

僕はまったくそんな風には思っていなくて、今のまま自分らしさを貫き通せば、きっと大成できるはずです。明らかに能力は高いので。

──チームのスタイルと合っていないという声もありますが?

久保くんが持っている能力を、与えられたチャンスでブレずに出せれば、なんの問題もありません。自分の武器をより研ぎ澄ます進化は必要だと思いますが、根っこの部分を変えずにやり続ければ、必ず花開くでしょう。

──メンタル面も強いですよね。親御さんの教育も良かったのでしょうか?

教育に何が正しい、正しくないというのはないと僕は思っていて、大事なのはそこに信念、情熱、愛情があるかどうかなんです。

サッカーで言うと、同じクリアでも、ただプレーを切るのか、次のプレーを考えての判断なのかによって、大きく意味合いは違ってきます。そこに意図や信念があるかどうか、なんです。

──Jリーグで際立っているのが、川崎フロンターレの三笘選手です。岡部さんは彼をどう見ていますか?

一日も早く世界に羽ばたいてほしい選手ですね。彼のドリブルは、距離と角度の作り方が抜群にうまいんです。でも一番の武器は、仕掛ける心、勇気。

時にセオリーを度外視しして自陣からドリブルで持ち上がることもありますが、それも自分らしさであって、ここはリスクを負ったほうがチームを助けられると、彼自身が判断してやっている。そこに芯の強さを感じますね。

──それは久保選手にも共通するドリブラーのメンタリティーですか?

そうですね。仕掛ける勇気を持てるかどうかが、ドリブラーにとっては成否の9割を占める。そうやって逃げずに挑戦し続ければ、いつかそれが特別な武器になるんです。

──では最後に改めて、サッカー選手を目指す子供たちとその親御さん、それぞれにメッセージを。

子供たちには挑戦しよう、楽しもう。お父さん、お母さんには全力で子供を応援しましょう、楽しみましょう、ですね。

──共通するのは「楽しむ心」、ですね?

それがないと何事も長くは続かないし、情熱も注げませんから。

サッカーがもっとうまくなる! 自分の武器の見つけ方
 岡部将和 著
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岡部将和(おかべ・まさかず)
1983年8月1日、神奈川県出身。Fリーグ出身のドリブル専門指導者。99%抜けるドリブル理論を持ち、YouTubeをはじめSNS上で配信する。フォロワーは240万人、ドリブル動画閲覧数は3億回再生を超える。国内はもちろん世界各国からアクセスされ、現在は全世界でドリブルクリニック開催中。また、サッカー日本代表選手や世界のスター選手に個別で独自のドリブル理論を指導。ロナウジーニョ、ネイマール、ヴィニシウス、本田圭佑、ジーコ、デル・ピエロ、ピルロなど名だたる選手たちとコラボ・対談を果たしている。
https://dribbledesigner.com

インタビュー・吉田治良
1967年、京都府生まれ。2000年から約10年間、「ワールドサッカーダイジェスト」編集長。「サッカーダイジェスト」、NBA専門誌「ダンクシュート」の編集長などを歴任し、2017年に独立。

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