最新記事
ビジネス

後続車に「ありがとう」の絵文字を表示──中国EV、豪華でユニークな装備の「独自すぎる進化」で勝負

2024年4月27日(土)12時11分
北京モーターショーに展示されたBYDのロゴ

4月25日、 競争が激しさを増す一方の中国の電気自動車(EV)市場では今、他の地域では決して目にされないような「豪華装備」を惜しげもなく提供し、消費者を引きつけようとする国内メーカーの動きが活発化している。写真は北京モーターショーに展示されたBYDのロゴ。同日撮影(2024年 ロイター/Tingshu Wang)

<1万~2万ドル程度の低価格EVにも、高級車並みの内装や多様な性能を盛り込む中国メーカー。外国メーカーもカラオケ搭載などで対抗>

競争が激しさを増す一方の中国の電気自動車(EV)市場では今、他の地域では決して目にされないような「豪華装備」を惜しげもなく提供し、消費者を引きつけようとする国内メーカーの動きが活発化している。

新興ブランドだけでなく国有の大手メーカーでさえ、2万ドル(約310万円)程度の低価格EVにも、かつては高級車向けと考えられてきた技術や性能を盛り込んでいるほどだ。2万ドルと言えば、米国の新車平均販売価格4万8000ドルの半分以下に過ぎない。

こうした流れは、中国市場で売れ筋のEVを抱えるテスラやフォルクスワーゲン(VW)をはじめとする外国勢にとっては逆風が強まることを意味する。

価格に関しては昨年、BYD(比亜迪)が「シーガル(海鴎)」を投入して業界に激震が走った。現在シーガルの販売価格は1万ドル未満で、中国における販売台数は4位となっている。

ただEV参入後発組の国有企業を含む他の中国メーカーも、25日に始まった国際自動車展示会「北京モーターショー」で1万ドルを切る車を披露し、BYDとの差を埋めた。

それらよりやや高い2万ドル近辺のEVやプラグインハイブリッド車(PHV)も市場にあふれているが、注目されるのはこうした車も高級車並みの内装や技術が装備されている点にある。

ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、レイモンド・ツァン氏は、中国の特に若い世代は自動車を選ぶ際に「技術面の豪華さ」を重視していて、中国メーカーはその面で優位に立ち続けていると指摘。「この状況は、多くの西側市場で車の買い手がなお品質や信頼性、乗り心地、操縦性などにかなり重きを置いているのとは非常に異なっている」と述べた。

中国メーカー各社は差別化に躍起

一部の中国メーカーは何とか差別化を図ろうとして、消費者を面白がらせるような機能を車に取り付けている。

ゼネラル・モーターズ(GM)と上海汽車(SAIC)の合弁企業が販売する小型EV「宝駿」(最低価格1万1000ドル前後)には、後方部分にドライバーが他の車に対して親切にされた場合に「ありがとう」やハートの絵文字をメッセージとして点滅させるためのスクリーンがある。

吉利汽車傘下のプレミアムブランド、ジーカーのEVセダン「001」のフロントグリルは、停車時に音楽を流しながら、歩行者に「いいね」の絵文字を送り続けることができる。

国有の東風汽車集団が披露している「納米」は航続距離300キロで価格は9600ドルだが、テスラによって人気となった空力性能を持ち、スマートフォンで離れた位置からドアを開けられる。

メルセデスは車内にカラオケ装備で対抗

これまで中国では、国産ブランドよりも欧米ブランドがより豪華で品質も上だとみなされてきたものの、そうした構図は急激に変わりつつある。

マッキンゼーのアナリストチームは3月に公表した中国自動車市場見通しで「外国ブランドの威光はほぼ消滅した。伝統的な高級外国車オーナーは一方的に中国産の高級新エネルギー車オーナーへと移り変わっている」と分析した。

こうした中でドイツのメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウス最高経営責任者(CEO)はロイターに、同社の中国デジタル技術チームが地元の若者の好みに応じ、中国の消費者に合った技術をより多く採用する作業に取り組んでいると明かした。

ケレニウス氏は「新しいEクラスではカラオケが歌える。多分ドイツでそんな機能は装備しないし、するべきではないだろう。だが中国の顧客はそれを愛している」と語る。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

郵船、発行済み株式の7.6%・1000億円を上限に

ビジネス

午前の日経平均は反落500円超安、円安進み為替介入

ワールド

カボベルデ、アフリカ初の平和サミット出席表明 ゼレ

ビジネス

過度な変動への対応、介入原資が制約とは認識してない
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中