最新記事

経済制裁

ロシア国債が「潜在的デフォルト」 投資家は法的手段を模索

2022年4月25日(月)08時41分
ルーブル硬貨

ロシアはドル建て国債で歴史に残るようなデフォルト(債務不履行)の危機に瀕しているが、同国債を保有する外国人投資家が資金を回収する上で受け入れ可能な選択肢は少ない。写真はルーブル硬貨。5日撮影(2022年 ロイター/Maxim Shemetov)

ロシアはドル建て国債で歴史に残るようなデフォルト(債務不履行)の危機に瀕しているが、同国債を保有する外国人投資家が資金を回収する上で受け入れ可能な選択肢は少ない。費用のかさむ法的措置に打って出るか、二国間の取り決めが効力を持つと信じるか、あるいは手をこまねいているしかないのが実態だ。

海外の債権者は通常、債務不履行が発生した場合に団結して、交渉に当たったり、裁判を起こしたり、場合によっては仲裁を求めたりしようとする。しかしロシアのウクライナ侵攻に伴う西側の制裁やロシア国債の特殊性から、今のところこうした手段は困難だと法律専門家は指摘する。

ドル建てとユーロ建てで発行されたロシアのソブリン債のうち約400億ドル(約5兆1600億円)相当が未償還で、その半分程度を外国人が保有している。こうした債券の大部分は、ロシアに対して定められた外貨での支払いを義務付けている。

西側の制裁でロシア政府は海外の銀行に預けている約3000億ドルの金と外貨準備が利用できなくなった。つまりロシア政府には国内に保有している外貨で支払うか、債務不履行に陥るか、の2つに1つの道しかない。

ロシアは、資金はあり、支払う意思もあるが、西側の制裁のせいで支払いができないと主張している。ロシアは外貨での支払いができない場合、外貨準備の凍結が解除されるまで自国通貨で支払うと表明している。

ロシアは4月4日に期日を迎えた国債2本の6億4900万ドルの元利払いを、起債条件で義務付けられているドルではなくルーブルで実施。大手金融機関や投資会社で構成するクレジット・デリバティブ決定委員会は、こうした動きを「潜在的な支払い不履行」と判定した。

格付け会社は、ロシアがドル建ての支払いが義務付けられている、あるいは返済の意思がないと認識されているなどとして、債務不履行の可能性があると指摘。S&Pはロシアの外貨建て債務の格付けを「選択的債務不履行」に引き下げた。

4日が期日の国債は支払いに30日間の猶予期間が設けられている。法律事務所クイン・エマニュエルのソブリン訴訟責任者、デニス・フラニツキー氏によると、5月初旬に猶予期間が切れた際の投資家の選択肢は、「様子を見る」、「ロシアに対して法的措置を取る」、「ロシアが数十カ国と結んでいる二国間条約に基づく仲裁を求める」の3つだ。

戦争の激化で制裁を巡る状況は刻々と変化しており、最初の選択肢が最も可能性が高いというのがフラニツキー氏の見立てで、ロシア国債を保有する投資家と接触している他の弁護士も同じ見解だ。

フラニツキー氏は「ウクライナ戦争はこの先どんな展開になるかよく分からないし、いつまで続くか見通しも立たない」と話す。

法的措置

ロシアの今の状況は過去に例のないものだ。

ある弁護士によると、主に地政学的な要因によってデフォルトのシナリオが浮上した最近の例としては、1979年にテヘランの米国大使館で起きた人質事件を受けて、当時のカーター米大統領がイランの石油販売を停止し、海外資産を凍結したときと、1982年のフォークランド紛争を受けて、英国が銀行にアルゼンチンのデフォルトを宣言するよう働きかけたときだ。

債務問題に詳しい弁護士のリー・ブッフハイト氏は、どちらのケースも政治的な圧力が緩むのに伴って危機は収まったと、当時を振り返った。「こんなことは40年ぶりだ。これは金融の問題ではなく、純粋に政治的な問題だ」と言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アストラゼネカ、30年までに売上高800億ドル 2

ビジネス

正のインフレ率での賃金・物価上昇、政策余地広がる=

ビジネス

IMF、英国の総選挙前減税に警鐘 成長予想は引き上

ワールド

シンガポール航空機かバンコクに緊急着陸、乱気流で乗
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中