人間には簡単だが機械には苦手なこと、その力を育むものこそ「数学」だ

2021年11月18日(木)11時54分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

このときの配達順は、カンでまあまあ最適な配達順を選んだはずや。同じマンションの荷物をまとめたりして効率化してな。で、必ずしも最短経路ではないけど、まあまあ最適な経路で配達することができたわけや。もしかして、例えばもう10分短縮できる配達経路はあるかもしれんけど、実用上はこの「だいたい最短経路」で問題ないし、人間はその「だいたい最短経路」を簡単に導き出すことができる。

環: 人間には簡単でも、コンピュータにやらせると84兆年かかってしまうのっておもしろいですね。

ピ: 囲碁や将棋も、似たような話やな。コンピュータなら何百手先を読むことは簡単そうやろ? ところがや、実際に計算してみるで。

将棋の場合1つの局面で指せる手が100手ぐらいあると言われとる。ということは、2手先で100×100で1万通り、3手先で100万通り、16手も先にいけば1032通りになって、さっきのセールスマンと同じくらいやな。何千回も宇宙の歴史を繰り返さないと計算できない量になってしまう。数手先を読むだけでもけっこう大変なんや。

ここでまた、ところがや。人間の場合、ある程度の将棋レベルがあれば、盤面をパッと見ただけで「先手のほうが優勢やな」とか「この陣形は強そうやな」とかわかってしまう。で、「先手のほうが優勢やな」と見えた16手後には案の定先手が勝ってしまったりもする。べつに16手先の1032通りのシミュレーションをしているわけではないけれど、なんとなく「大局観」として見えるんやな。そんなわけで、コンピュータに将棋を指させても、なかなか人間に勝てない時代が長かったんや。初心者よりも強くはなるけど、大局観を身につけたアマチュア上級者には苦戦するし、その上のプロにはなかなか勝てん。

囲碁や将棋で、コンピュータが人間のトッププロに勝てるようになったのは2010年代になってからや。だから世の中も大騒ぎはじめたんやな。

環: 囲碁でコンピュータが人間に勝ったときは世界でニュースになりましたね。

ピ: 次に、「画像認識」も、コンピュータには意外と難しい分野やったんや。リンゴをパッと見たとき、人間だったら「あ、リンゴや」とすぐにわかるやろ。ところが、コンピュータにこれをやらせようとするとなかなか難しい。まともにやると、「リンゴというのは、赤くて丸くて直径が何センチぐらいで......」というようなことを必死に教え込まねばならん。「じゃあ緑色のはリンゴじゃあらへんの?」となったら青リンゴについても教えなならんし、「これ、丸というより四角っぽいんやけど、リンゴに入らへんの?」という疑問にも答えてやらなあかん。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中