最新記事

日本企業

東芝報告書が広げる波紋、対日投資に響く恐れ 監視強化に影響も

2021年6月14日(月)18時08分

今回、東芝の調査報告書が浮かび上がらせたのは「外為法による関与がどこまで正当化されるのかが不透明なことだ」と、在京の市場関係者は言う。報告書は経産省元参与の水野弘道氏の関与に言及したが、経産省幹部による「元参与に投資家への働きかけを依頼した事実はない」とする5月の国会答弁とは食い違う。

梶山弘志経産相は11日の閣議後会見で「外為法の執行に当たっては国の安全などを確保する観点から規制対象となる株主の行為を審査する上で、事業者から情報を得ることもある。こうした対応が直ちに問題になるとは考えていない」と述べた。ただ、事実認識の異なる現状では「(報告書を受けた)東芝と、経産省が今後どう説明するかで日本市場への疑念が深まりかねない」と、前出の市場関係者は語る。

懸念されるのが対日投資への影響だ。日本への海外からの投資はただでさえ少なく、実質国内総生産(GDP)に対する直接投資残高の比率は20年末時点で7.4%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の56.4%からも大きく差を付けられ、G7では最も低い。

政府は18日に閣議決定する骨太方針で、20年末に39.4兆円まで積み上げた対日直接投資残高を「2030年に80兆円、GDP比で12%とする」ことを新たな目標に掲げるが、筋書きどおり達成できるかが焦点となる。

骨太では、外為法上の投資審査・事後監査について「関係府省庁の連携強化を進めつつ、執行体制の強化を図るとともに、指定業種の在り方にかかわる検討を行う」との考えも打ち出す。

重点審査対象となる「コア業種」に指定されている楽天グループや日立金属などに対する海外企業の出資、買収案件が今年に入って相次ぎ、複数の政府関係者によると、改正外為法に基づく手続きに入っているとみられる。別の関係者は「安全保障の観点から意見交換は重要。改正外為法があるからこそ、こうした議論も生まれ、世界の潮流に照らし合わせても法律自体は意義深い」と体制強化の狙いを語る。

しかし、外為法の恣意(しい)的な運用が疑われ、米資産運用会社ブラックロックなど海外勢の疑念が再燃するようだと、対日投資拡大の政策に反して目標が遠退くだけでなく、「監視強化の議論に飛び火しかねない」(前出の関係者)と懸念する声も出ている。

(山口貴也、梅川崇 編集:田中志保)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中