コラム

安くて便利なデフレ・ジャパン、暮らしやすくて最高......なんだけれどね

2022年08月16日(火)17時05分
日本の飲食店

安い牛肉もせんべろもある。後は賃金さえ上がれば…… HANNIBAL HANSCHKEーREUTERS

<昔、「高っ!」と驚かれた日本の物価は今や「安っ!」と世界から驚かれている。「暮らしの付加価値」も保たれていてすごいが、もちろん、手放しでは喜べない>

1993年。僕が初めて太平洋を渡ったとき、日本は物価が高い国として世界中に知られていた。

直前の不動産バブルでは「東京の山手線内の土地の合計地価でアメリカ全土の土地が買える」という、少し失礼な試算も有名だった。「銀座の地面に新聞を広げたら、その面積の地価がアイダホ州の一軒家の平均価格より高い」と聞いたときは確かに驚いた。アイダホの草原に人が住んでいるとは!
2022080916issue_cover200.jpg

物価の高いイメージもあったが、お金にあふれているイメージもあった。竹やぶを散歩すればだいたい札束が見つかるということは、日本のニュースを見て分かったので、僕は移住することにした。

それでも、実際に値段を見てひっくり返りそうになった。生ビール700円! コーヒー450円! 映画館のチケット1800円! 『マディソン郡の橋』なんか、日本の映画館で見るよりアイオワ州で本物の橋を買ったほうが安いだろうと、当時思った記憶もある。

2022年。昔、「高っ!」と驚かれた日本の物価は今や「安っ!」と世界から驚かれている。

日本は98年に正式に「デフレ」となった。世界でまれに見る、モノやサービスが徐々に安くなる、とても不思議な現象だ。

当然、安さを売りにする企業も続出した。100円均一の生活必需品店。1000円カットの理髪店。ワンコインタクシー。せんべろの居酒屋。ちなみに、僕もよくお世話になるが、これは「剤を飲んでも分からないほどベロが麻痺している人向け」という意味ではない。「千円でべろべろ」の略だ。おいしいよ。

特にうれしかったのは、1000円のステーキ店や3000円の焼肉食べ放題など。吉野家の牛丼並盛は400円から280円に下げられた。マクドナルドのハンバーガーも一時期なんと59円という最安値を記録した!

肉食男子だった僕にとっては最高の環境だ。出身のコロラド州では、そこら辺の牛にカブリつかない限りこんなに手頃なビーフは頂けない。たらふく食べても超安上がり。相変わらず、牛本人にとっては高くつくけどね。

同時期に、さまざまな商品のクオリティーが上がった。テレビが前より大きくて画質もきれい! 洋服が前よりおしゃれで丈夫! 冷蔵庫が前より容量増しの消費電力減! 電球も省エネで長寿命!

モノだけでなく、サービスも安くて便利になった。

何か知りたいときは図書館に行かなくても、検索一つでほとんどの情報が入手できる。ウィキペディアも以前より正確(僕のページに載っている誤りは3つだけ!)。

家で映画を見たいなら、昔はレンタルで1本300円だった映画が今やサブスクリプションサービスで月に1000円程度で見放題。レンタルビデオ店に行かなくていいし、「あのコンテンツ」を閲覧するために他人の目を盗みながら、のれんをくぐらなくて済む。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story