コラム

私は油断していた......「ずっと寝たきり」を警告された新型コロナ感染者の後遺症体験記

2022年05月02日(月)09時23分

医師から勧められた「Bスポット療法」

コロナ後遺症の症状は人によってさまざまだが、私の場合は「だるさ(倦怠感)」と「喉の痛み」が強烈だった。だるさ対策としてアドバイスされたのは、「だるくなることをしない」。ミもフタもない対策だなとは思ったが、目から鱗でもあった。だるくなることをしなければ、身体はだるくならないのだ。

「今、無理をするとずっと寝たきりになる恐れもあります」

との説明は少し大袈裟に感じたが、あの異常な倦怠感がさらに悪化すれば、あり得ない話ではない。自分はまだ病人なのだと自覚し、仕事量を減らして無理をしないことに決めた。

このほか医師から勧められたのは、「Bスポット療法」というものだった。コロナ後遺症では、鼻の奥の喉のあたり(=上咽頭)に炎症が起きることが多く、そうした炎症の治療として行われるのが、Bスポット療法だという。50〜60年前からある治療法で、現在は「EAT」、「上咽頭擦過療法」とも呼ばれている。

自宅近くの耳鼻科で受けられることが分かり、翌日、早速受けることにした。椅子に座って「口を開けてください」と言われると、女性の医師は大きな綿棒の先を薬剤の入った瓶に浸し、そのまま私の喉奥に突っ込んだ。「ちょっと痛いかもしれません」と予告されていたが、予想以上だった。

喉の奥を殴られたような強い衝撃を感じ、頭のなかが真っ白になった。染みるような痛みに加えて、オエッとなりそうな嘔吐反応にも耐えなくてはいけない。拷問に近い苦しさで、顔が歪む(繰り返すが、私の「個人の感想」。もう少し楽に感じる人もいるかもしれない。時間的に数秒なので、胃カメラよりは楽)。

薬剤はルゴールというヨウ素の入った液体で、見た目はイソジンに似ている(成分は異なる)。これを直接、喉奥(上咽頭)に塗りつけているのだから、わりと荒治療と言える。とはいえ、シンプルな治療法ゆえに安全性も高いらしい。治療を終えると、喉の痛みやイガイガが一時的に和らいだ。

喉の回復スピードは非常に遅く、いつまでこの状態が続くのだろうかと不安を覚えることもあった。コロナ後遺症のなかには「うつ症状」も出る場合があるという。私の場合も、まったく何もやる気が起きず、一生このままなのではないかと絶望感を覚える瞬間があった。三食ちゃんと食べて風呂に入って寝るという、当たり前の日常生活を維持するだけで精一杯だった。

Bスポット療法を開始して2週間ほど経つと、倦怠感は取れてきたが、咳はしつこく続いていた。食事中もコンコンと空咳が出てしまい、ご飯が食べにくい。就寝時は、激しく咳き込みこともあった。

「疲れたらすぐ休む」を心がけ、Bスポット療法を週2〜3回のペースで続けた結果、少しずつ体調は回復していった。頻度は週1〜2回でも良いそうだが、私は頻繁に受けたかったので、医師の許可のもと週3回ほど通っていた。

コロナ後遺症を自覚して1カ月が経った現在、ようやく体調は元に戻りつつあるが、これほど厄介なものだとは思わなかった。感染から2カ月以上が経った現在も咳が残り、声は少しかすれている。

オミクロン株は確かにデルタ株より毒性が低く、現役世代であれば、確かに「かかっても大丈夫」なのだろう。ただし、それは「死ぬような病気ではない」という意味に過ぎない。少なくとも私の場合はインフルエンザよりはるかに厄介で、とても辛い病気だった。厚労省の定義では「軽症」だったが、私には「大病を患った」と感じられた。

今後も、コロナ後遺症の患者は増え続けるだろう。コロナの症状は人によって程度が大きく異なるため、ほとんど運みたいなものかもしれない。嫌なガチャである。「コロナを正しく恐れる」なんて無理だと思うけれど、「インフルエンザと同じ」「風邪と同じ」と考えている人には、決してそうではないと伝えておきたい(「個人の感想」です)。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story