コラム

よくしゃべり、よく食べ、互いの体を貪り合う... 欲望全開でも静かな『火口のふたり』の2人

2021年01月26日(火)11時35分

でも同時に静かだ。互いの体を貪り合いながら、互いの過去の記憶をたどる。東日本大震災以降、僕たちは滅亡する自分たちを、意識の片隅で常に意識しているのかもしれない。それはエントロピーが増大してあらゆるエネルギーの動きが停止した宇宙のように、疫病が蔓延した世界のように、とても静謐なカタストロフィーだ。

僕はそう解釈した。荒井からは森君は何を言ってるのかね、と言われるかもしれないけれど。

ネットで検索したら、本作上映後のトークで、荒井がこんなことを言っていた。最後にペーストする。

「人間って、昼間もあるけれど夜もある。昼だけ描く、そういうのっておかしいな、僕はむしろダークサイドを描くことが人間を描くことだと思っています」

magmori210126_futari2.jpg『火口のふたり』(2019年)
監督/荒井晴彦
出演/柄本佑、瀧内公美

<本誌2021年1月26日号掲載>

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プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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