コラム

最近、中国経済のニュースが少ない理由

2016年09月27日(火)16時00分

 ところが、2016年に入ると株価や為替が一転して静かになりました。株価は1月から3000ポイントあたりでずっと平穏なままです。為替レートは3月の1ドル=6.5元前後から9月には6.7元前後とやや下がり気味ですが、中国当局が外為市場に大規模な介入を行うほどの動揺は起きていません。中国経済が表面上は安定していたため、中国のマクロ経済の話題がほとんど取り上げられなかったのです。

 では実際のところ、どうなのでしょう。お天気にたとえれば「雲間に晴れ間がさしてきた。でも先行き晴れではなく、これからも曇りでところどころ晴れ間がさすような天気が続くだろう」というのが私の見立てです。

昨年の成長率は5%台だった?

 中国の国家統計局の公式数字では2015年のGDP成長率は6.9%であったのに対し、2016年上半期は6.7%で、緩やかに下がってきているのですが、私の見るところ、むしろ2016年に入ってから中国の景気が上向いているようです。それは2016年上半期の成長率が過小報告されているというよりも、2015年の成長率は過大報告されていたからだと思います。以前このコラムで書いたように、2015年の中国のGDP成長率は5%台に落ちていたのではないかと私は推測しています。

 というのは、2015年には国家統計局の発表によれば石炭、鉄鋼、セメント、パソコンなどの生産量が下落したし、発電量もわずか0.3%の増加で、これらの数字と鉱工業全体の付加価値額が6.1%成長したという集計結果との間に整合性があるとは思えないからです。

 理論的には、付加価値額が6.1%成長することと生産量が減少することとは両立不可能ではありません。産業が高付加価値化し、製品単価が上がり、コストが下がれば、両立は可能です。ただ、経験的には鉱工業製品の生産量の成長率と、付加価値額の成長率との間にはかなり密接な関係があります(表1)。

maru0928-01.jpg
 
 ところが2015年に限っては両者の関係が大きく崩れています。生産量を加重平均するとマイナス0.5%の成長だったのに、付加価値額は6.1%も成長したとされているのです。鉄鋼や石炭が減産していることは他の情報と照らし合わせても確からしいので、私は生産量のデータのほうは正確だろうと思います。ということは付加価値額が6.1%成長したという発表が疑わしいということになります。

 一方、2016年上半期には鉱工業製品の生産量が改善してきました。発電量は前年同期比で1.0%増加しましたし、鋼材は2015年のマイナス0.1%から2016年上半期にはプラス1.1%へ、セメントはマイナス5.3%からプラス3.2%に回復しました。自動車生産台数も2015年は3.3%の増加にとどまったのが2016年上半期には6.0%増加しています。鉱工業製品の生産量を加重平均すると3.1%増なので、鉱工業の付加価値額もある程度のプラス成長をしたのではないかと思うのです。従来の両者の関係から推測すると、付加価値額の成長率はせいぜい3~4%程度だと思いますが、それでも2015年よりも好転しているはず。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story