コラム

英総選挙、どっちつかずより「とっとと離脱」を選んだイギリスは大丈夫か

2019年12月14日(土)10時58分

それでも、ジョンソン氏は保守党を大勝に導いた。

その鍵は、ブレグジットだった。キャンペーン中、「ブレグジットを実行する」、「もうオーブンに入っている(だから、すぐ実行できるぞ)」と繰り返したジョンソン氏。耳にタコができるようなフレーズの繰り返しだった。

しかし、これこそが今の英国の有権者の多くが望んでいることだった。

離脱の是非を問う国民投票から3年半が経過し、それでもいつ離脱するのかが定かではない英国は、「ブレグジットを実行する」と繰り返す、ジョンソン氏のような人物を必要としていた。そして、有権者は保守党に票を投じることでそれを証明して見せた。

嫌われた、ジェッザ

今から4年前の2015年、緊縮財政が継いた英国で、労働党の党首選が行われた。

この時、まさかと思う人物が選ばれてしまった。他の党首候補者よりも20歳は年齢が高く、万年平議員のジェレミー・コービン氏だ。反戦・反核運動で知られ、筋金入りの左派である。愛称は「ジェッザ」。

社会福祉の削減が次第に負の影響を及ぼしはじめ、嫌気がさしていた国民感情を察知した労働党内の左派層がコービン氏を後押し。党首選が進む中で、コービン氏の社会民主主義的政策が若者層に魅力的に映った。

しかし、「既成体制を脅かす」存在とみなされたコービン氏は党内の中道派や右派系マスコミに頻繁に批判された。何度も「コービン下ろし」の動きがあり、これをかいくぐりながら、今日まで党首の地位を維持してきた。

ところが、今回の総選挙では、59議席を失い、獲得議席数は203。1935年以来の低い議席数である。しかも、今回は、伝統的に労働党の拠点だったイングランド地方北部の複数の選挙区での負けが目立った。

どんなコービン下ろしにも頑として動じなかったコービン氏は、自分の選挙区であるロンドン・イズリントンで、「非常にがっかりする結果となりました」と述べた。

「それでも、選挙中の私たちの公約は人々に希望を与えるものだったと思います」と胸を張った。

ただし、「次の選挙では、私は党首として闘いません」と宣言した。いつ辞任するかは党幹部との協議によるという。

労働党大敗の理由も明らかだった。やっぱり、ブレグジットだったのである。

「再度の国民投票」で、支持者を減らす

2016年のEU加盟の是非を問う国民投票の際に、労働党は議員内では残留派が大部分だったが、自分の選挙区は離脱を選択したケースが多々あった。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story