コラム

慰安婦問題に迫る映画『主戦場』 英エセックス大学の上映会でデザキ監督が語ったことは

2019年11月22日(金)18時00分

英南部エセックス大学で上映された『主戦場イベント』(筆者撮影)

<前向きな反応も多い話題のドキュメンタリーが日本で上映中止になるのはなぜか。また、誰が映画を怖れているのか。『主戦場』監督との一問一答>

第2次世界大戦時の慰安婦問題を主題にしたドキュメンタリー映画『主戦場』が、このところ、話題になっている。

KAWASAKIしんゆり映画祭」(10月末から11月4日)では、安全性を理由にいったんは上映中止とされながらも、最終日に上映が実現したことで大きな注目を集めたばかりだ。

日本で、慰安婦問題と言えば......どう表現したらよいのだろう。

例えば、日本語のウィキペディアでは、以下の説明になっている。


旧日本軍の慰安婦に対する日本の国家責任の有無に関する問題。慰安婦問題にはさまざまな認識の差異や論点があり、日本・大韓民国・アメリカ合衆国・国際連合などで1980年代ころから議論となっている。慰安婦は当時合法とされた公娼であり民間業者により報酬が支払われていたこと、斡旋業者が新聞広告などで広く募集をし内地の日本人女性をも慰安婦として採用していたことなどから国家責任はないとの主張がある一方、一般女性が慰安婦として官憲や軍隊により強制連行された性奴隷であるとの主張もある。 出典:(ウィキペディア

筆者自身は、「河野談話」を踏まえ、日本やほかのアジア諸国の女性たちが兵士たちに性的サービスを行っていたこと、今でもその時の後遺症に苦しんでいる人やその遺族がいることを事実として認識している。

しかし、国がどの程度関与していたのか、どんな女性たちだったのか、本人の同意があったのかどうかなどについては、国内で意見が分かれていることも承知している。欧米で英訳として使われる「sex slave(性の奴隷)」という言い方に反論する、あるいは怒りを表明する人も少なくない、ということも。

日系アメリカ人ミキ・デザキ氏が監督した『主戦場』は、保守系政治家、タレント、歴史修正主義者、リベラル系学者などのインタビューと並行して、元慰安婦や慰安婦の遺族への取材映像、証言のアーカイブフィルムなどを交えた作品だ。

デザキ氏にとって、監督第1作目の映画である。上智大学大学院の修士課程卒業のために作ったという。

慰安婦問題という論争を呼ぶトピックを真正面から取り扱ったこの映画は、公開当時からじわじわと人気を高めた。

初夏、筆者は一時帰国中に『主戦場』を渋谷のある映画館で最初に見た。場内は満員で、上映後は次の回を見ようとする人の長い列ができていた。観客の年齢層は20代から70代ぐらい。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story