コラム

「ジョコビッチは愚か者だ」豪入国拒否問題で英名門紙がスター選手をバッサリ

2022年01月07日(金)20時24分
ジョコビッチ

影響の大きいスター選手なのに無責任な言動が過ぎた?ジョコビッチ(昨年12月) Susana Vera-REUTERS

<セルビア一国と世界中のテニスファンを敵に回したモリソン豪首相の判断は、反ワクチン主義者に対する「魔女狩り」との意見もあるが>

[ロンドン発]男子テニスの世界ランキング1位ノバク・ジョコビッチ選手(34)=セルビア=が全豪オープン出場のため新型コロナウイルスワクチン接種の免除を認められオーストラリアに到着したものの、書類不備を理由に入国を拒否された問題が論争を呼んでいる。オーストラリアでも感染力の強いオミクロン株の流行で感染者が激増している。

どの国にもワクチン接種を拒む層は一定の割合で存在するものの、今回のパンデミックでは「個人防衛」より「社会防衛」が重視され、接種を義務化した国も少なくない。2月に開幕する北京冬季五輪ではワクチン未接種のアスリートは到着後3週間の隔離が課される。ワクチン接種を拒むアスリートに国際スポーツ大会に出場する資格はないのか。

大会4連覇と、4大大会歴代単独最多となる21勝目が懸かるジョコビッチ選手の出場は今月17~30日に開かれる全豪オープンの目玉。オーストラリアの厳しい水際対策を懸念して大会に参加するかどうか態度を保留していたジョコビッチ選手は今月4日、自らのインスタグラムで「今日接種免除が認められたのでオーストラリアに向かう」と報告した。

全豪オープンを運営する地元ビクトリア州政府が特例として接種免除を決めたものの、外国人に厳しい入国規制を課すオーストラリアでは「特別扱いではないか」と反発が広がった。オーストラリア連邦政府が管轄する国境警備隊は5日深夜にメルボルンの空港に到着したジョコビッチ選手の入国を拒否した。書類の不備が理由だった。

「ルールはルールだ」と言い放った豪首相

スコット・モリソン豪首相はツイッターで「ジョコビッチ選手の入国ビザ(査証)は取り消された。ルールはルールだ。特に国境に関してはそうだ。誰もこのルールから逃れられない。わが国がコロナによる死亡率を世界で最も低く抑えているのは強力な国境政策のおかげだ。引き続き警戒する」と国境警備隊の対応を支持した。

これに対し、セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領はインスタグラムで「ジョコビッチ選手と電話で話した。 セルビア全体が彼を支持していること、われわれは可能な限り短い期間に世界最高のテニスプレーヤーへの嫌がらせを止めさせるためあらゆる措置を講じていることを伝えた。 国際法のルールに従い、セルビアは正義と真実のために戦う」と宣言した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル経済活動指数、第1四半期は上昇 3月は低下

ビジネス

マイクロソフト、中国の従業員700人超に国外転勤を

ワールド

アルゼンチン、4カ月連続で財政黒字達成 経済相が見

ワールド

トランプ氏、AUKUSへの支持示唆 モリソン前豪首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story