コラム

オミクロン株 飲食店の屋内営業を制限しなければ最大7万5千人の死者 英大学が警告

2021年12月12日(日)20時14分

最楽観シナリオと最悲観シナリオでそれぞれS0、S1、S2の対策をとった場合の入院患者数と死者数は下のグラフの通りだ。

211216taisakku2.jpeg
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)のモデリング予測(査読前論文より)

一番悲観的な(4)のシナリオでは1日当たりの新規入院患者は7190人(5230~1万40人)に膨れ上がり、今年1月のピークだった3800人をはるかに上回る。このため、ステップ2以上の厳しい対策が必要になる。外出を禁止(ステップ0)しても入院患者は17万2千人(13万3千~21万7千人)、死者は2万7千人(2万300~3万4400人)に達する。

研究チーム「マスク着用、社会的距離、予防接種だけでは不十分」

研究を主導したLSHTM感染症数理モデリングセンターのロザンナ・バーナード博士は「最楽観シナリオでは在宅勤務など穏やかな対策で軽減される。しかし最悲観シナリオでは医療機関に負担をかけないためより厳しい制限に耐えなければならないだろう。マスク着用、社会的距離、予防接種は不可欠だが、それだけでは不十分な恐れがある」と語る。

「オミクロン株がデルタ株に比べて免疫回避率や感染力が強い場合、医療を守るために最後の手段が必要になる可能性がある。意思決定者はこれらの対策が疫学面だけでなく、より広い社会的な影響を考慮することが重要だ。今後数週間の間にさらに多くのデータが得られれば、どのような影響があるかがさらに明らかになってくる」

バーナード博士は明言を避けたが、「最後の手段」とはロックダウンを指しているとみて良いだろう。

共同研究者のニック・デイビス博士は「現在の傾向が続けば12月末にはイギリスの感染者の半数がオミクロン株になる可能性がある。3回目接種をしない場合のシナリオでは入院者数のピークが3回目接種をした場合のシナリオに比べて5倍に膨れ上がる恐れがある。3回目接種が不可欠であることが示唆されている」と強調する。

スコットランド主席医務官「100人いる部屋なら50人が感染」

スコットランドのグレゴール・スミス主席医務官が「オミクロン株の罹患率は50%以上だ。100人いる部屋で1人がオミクロン株に感染していれば少なくとも50人が感染する可能性がある」と指摘するように、オミクロン株によるスーパースプレッダーイベントはデルタ株に比べてはるかに起こりやすい。

英保健安全保障局は10日「これまでの分析によるとオミクロン株の再感染リスクはデルタ株の3~8倍になると考えられる。12月中旬までに国内の感染者の半数以上がオミクロン株となる」と予測する報告書を公開し、このまま増加すれば年末には1日10万人以上の感染者が出るだろうと警鐘を鳴らした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替動向、介入有無含めコメントは控える=岸田首相

ワールド

ガザ病院職員がICC検察官に証言、戦争犯罪の疑いで

ワールド

石油・ガス上流部門、年末までに1500億ドルのM&

ビジネス

中国BYD、第1四半期は10%増益 伸び率は22年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story