コラム

厳しい入場制限で市民団体を排除、COP26は史上最悪の密室交渉

2021年11月09日(火)11時55分

同じイギリスでもイングランドはマスク着用も義務付けられていないのに対して「COP26のコロナ対策はわが国より厳しい」とポルトガル政府代表団のメンバーは打ち明ける。スコットランドの1日当たりの新規感染者数は2500人前後でほぼ横ばい。グラスゴーの10万人当たりの感染者数はイングランド北部の半分以下だ。

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COP26会場のセキュリティーチェックには長い列ができた(筆者が自撮り)

コロナ対策や警備を厳重にするとどうしても長い行列ができる。CANは「包摂の精神はイギリス人が最も得意とする行列を披露してくれた。時間と金をかけてグラスゴーにやってきた人々は何時間も待たされたあげく、会議の席が設けられていないことを知らされる。オンラインで参加できると言われた会議は実はオフラインという有様だ」とこき下ろす。

会場の外で2時間待たされた車いすのイスラエル・エネルギー相

「COP26は運営面ではこれまでで最悪のCOP」という評価もある。会場へのアクセスを拒否されたのは何も市民団体に限ったことではない。

イスラエルのカリン・エルハラ・エネルギー相は11月1日、車いすでCOP26の会場に入るのを拒否され、サミットに参加できなかった。筋ジストロフィーを患うエルハラ氏は外で2時間も待たされ、最終的に会場へのシャトルバスが提供された。しかし、そのシャトルバスでは車いすを利用できず、仕方なく車で約1時間のエジンバラのホテルに引き揚げた。

エルハラ氏はツイッターで「私がCOP26に来たのは世界中の交渉相手と会い、ともに気候危機と闘うためだ。今年、障害者のアクセスを推進する国連がCOP26でアクセスを提供しないのは悲しいことだ」と訴えた。ボリス・ジョンソン英首相はエルハラ氏に「申し訳なかった」と直接謝罪した。

一方、市民団体は「市民社会は会議に政府代表団と平等にアクセスできるパートナーとして扱われなければならない。私たちは皆、温暖化を阻止するという同じ目的を持っている」と主催者の英政府と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に改善を求めた。しかし記者会見で連日のように「市民社会が会議に参加できていない」との苦情が寄せられている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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