コラム

中国がやってきて、香港は一夜にして「殺された」──リンゴ日報廃刊までの悪夢を幹部が語る

2021年07月23日(金)20時48分

「逮捕された人は数年も刑務所に放り込まれる恐れがある。(法治国家では「推定無罪の原則」があるが)無実が証明されるまで原則的に有罪が推定される。外国勢力との共謀、国家転覆、分離など、灰色で非常にあいまいな罪状で起訴された。われわれにはそれが何を意味しているのかさえ分からない。しかし表現の自由が犯罪にされるのを目の当たりにした」

「われわれの憲法に当たる香港基本法は表現の自由をはじめ出版の自由、集会の自由など他の多くの自由を保障している。こうした自由は窓から投げ捨てられ、香港市民はその代償を払わされている。中国の法的システムの犠牲になっている。言い換えれば、これは"戦争"だ。世界で最も開かれた自由な国際都市は非常に短期間で劇的に殺された」

自由か、隷従かという究極の選択

リンゴ日報の最後についてクリフォード氏はこう語った。「1940年代にソ連がしたこと、1949年に中華人民共和国が誕生したあと中国共産党が上海で行ったことを思い起こさなければならない。最後のリンゴ日報が製作されている時、何千人もの香港の一般市民が私たちの本社を取り囲んだ。それはすごく、私たちの心を励ましてくれる感動的なシーンだった」

「普段は約8万部しか刷らないが、 100万部を印刷した。午前3時、香港の街頭に最後のリンゴ日報を求める人々が列をつくった。香港の民主派に声を与えた私たちの新聞への大きな支持が表明されたのだ」

「香港当局も中国共産党も自由市場経済を望んでいない。中国にとってライ氏とリンゴ日報で働く数百人の非常に勇敢な人々は大きな脅威だったのだ。世界で2番目の経済規模を誇り、何千年もの歴史を持つ中国はリンゴ日報のようなちっぽけな新聞を恐れて、存在することを許さなかったのだ」

「だから廃刊に追い込んだ。とても、とても悲しい時間だった。香港の最終章がどうなるか分からない。中国共産党があなたを廃業に追い込みたいと決定した時、あちら側にいるのは本当に良くないことだ。香港市民の支援を見ると、いろいろな意味で励みになる。これがネクスト・デジタルとリンゴ日報の物語だ」とクリフォード氏は締めくくった。

英シンクタンク Z/Yenグループの「世界金融センター指数」によると、香港のランキングはニューヨーク、ロンドン、上海に次ぐ、世界第4位にランキングされる。購買力ではすでにアメリカを凌駕する中国は水も漏らさぬ都市封鎖でコロナ危機を抑え込み、今年の中国の成長率は8.5%と予測されている(世界銀行)。

リンゴ日報の廃刊は私たちに「表現の自由」の大切さを問いかけている。中国共産党の支配下に置かれた香港では民間企業への"死刑"が裁判なしに執行されるようになった。世界はこれから精神の自由か、それとも中国マネーへの隷従かという究極の選択を迫られることになる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story