コラム

トランプ、プーチン、それともメルケル? 保守ポピュリズムが台頭する旧東欧諸国の選択

2017年07月24日(月)17時54分

司法の独立を守るためポーランド・ワルシャワの最高裁前に集まった群衆(2017年7月2日) Kacper Pempel-REUTERS

[ロンドン発]イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉で一枚岩になっていたEUの結束が旧東欧諸国の反乱で大きく揺らいでいる。ポーランドの愛国主義保守政党「法と正義」が最高裁判所の全判事を入れ替えられるようにする法案を成立させようとしているため、首都ワルシャワや主要都市で市民が「司法の独立を脅かす」と大規模な抗議デモを繰り広げている。

旧共産圏の反動

EUやドイツは法案を撤回しなければポーランドに制裁を加えると圧力を強めているが、難民の受け入れをめぐりEUやドイツと激しく対立するハンガリーの首相オルバン・ビクトルが「ポーランドを支援するためなら、ハンガリーはEUにおいてあらゆる法的手段をとる」と宣言、全面対決の構えを見せる。

2004年にEU加盟を果たしたポーランドやハンガリーは世界金融危機の一時期を除き、経済成長が続いている。しかし、ベルリンの壁崩壊後、全く非効率だが平等な共産主義から、効率的だが格差を広げる市場主義に切り替わり、それまでの停滞した生活様式や社会構造が急激に変化した。多文化や多様性に接する機会が少ないこうした旧共産圏では反動が起こりやすい。

ハンガリーでは10年、オルバンが首相に返り咲き、「非自由主義国家」化を宣言。ポーランドでも15年に「法と正義」が政権を奪還し、民主化後初めて単独政権を発足させた。「リベラルな民主主義」を錦の御旗に拡大を続けてきたEUと、急激に保守化するハンガリー、ポーランドの相性は最悪だ。

ポーランドでは、現在最高裁判事を任命している独立機関を解体し、人事権を法相に移す法案が上下両院で可決され、「法と正義」出身の大統領アンジェイ・ドゥダの署名を待つばかりとなった。法相は検察官の親玉であり、裁判の公平性が疑われる。市民が「司法の独立を定めた憲法を守れ」「自由、平等、民主主義を!」と叫び始めて23日ですでに8日間が経過した。

「法と正義」は「最高裁判事の人事は共産主義時代から改革されておらず、腐敗している」と声高に唱えている。しかし「法と正義」は政権奪還後、公共放送や官僚のトップ人事に介入できるよう法改正しており、EUからすれば「反動の支配強化」以外の何物でもない。主権を強調する政治指導者の考えることは万国共通だ。

今年3月にはEU大統領(首脳会議の常任議長)ドナルド・トゥスクの再任にEU加盟28カ国中、ポーランドだけが反対して物議を醸した。

kimura2017072401.jpg
EU大統領トゥスク(2017年3月)Masato Kimura

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、S&P500年末予想を5500に引き上げ

ビジネス

UAE経済は好調 今年予想上回る4%成長へ IMF

ワールド

ニューカレドニア、空港閉鎖で観光客足止め 仏から警

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 8

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story