コラム

韓国の次期大統領有力候補3人の対日政策と対北朝鮮政策

2021年09月10日(金)12時28分

一方、8月22日に発表した「大転換時代に統一外交構想」では韓国と北朝鮮の絶対多数は朝鮮戦争以前の単一国家を経験していない世代であることを強調しながら、「今後は単一民族に基づいた必然的統一論理では国民の同意を得ることができない。(中略)統一外交政策も理念と体制を乗り越えて韓国と北朝鮮両方の成長と発展に役に立つ実用的方向への転換が必要だ」と強調した。一方、北朝鮮が間違った行動をした場合には明確に韓国政府の立場を伝える。そして北朝鮮の呼応がない状態で南北協力事業を一方的に進めないと主張する等、文政権とは差別化した対北朝鮮政策を実施する可能性を示唆した。

次は、与党「共に民主党」の李洛淵氏の対日政策と対北朝鮮政策を見てみよう。李洛淵氏の対日政策は、李在明氏より、そして現在の文政権より親日になる可能性が高い。李洛淵氏は、東亜日報(韓国の大手紙)の東京特派員を務めた経験もあり、韓国の政治圏内では「最高の知日派」として知られている。しかし支持率においてはライバルとなる李在明氏に抜かれている。

竹島の削除を要求

支持率を意識したのか、東京オリンピックの参加をめぐって世論が分かれていた今年の5月には自分のフェイスブックに、東京オリンピック・パラリンピックの公式ホームページに掲載されている日本の地図に、竹島(韓国名・独島)が表示されていることについて、「直ちに削除することを要求する」と書いた。また、東京オリンピック・パラリンピックのボイコットを含めて可能なすべての手段を使い、断固対応すると主張した。知日で親日派と言われている彼がここまで極端的な行動をしたことに対して、専門家らは日本に対する強硬な姿勢で支持基盤を拡大した李在明氏や文大統領を意識した可能性が高いと解釈している。

対北朝鮮政策について李洛淵氏は、文政権の政策を継承する立場を明らかにした。2020年10月21日に外国のマスコミ向けに開かれた記者会見で、「現政権の対北朝鮮政策について、部分的に補完することはあり得るが、大枠では継承することが正しいと信じる」と述べた。

最後に、尹錫悦氏は対日政策と対北朝鮮政策についてまだ明確に言及していないが、日本に対しては「対日協力路線」を、そして北朝鮮に対しては文政権の対北朝鮮政策を大きく修正した「強硬路線」を取る可能性が高い。尹錫悦氏は今年の8月に政策ブレーンとなる政策諮問団42人を公開しており、42人には昨年末まで文政権で北朝鮮の核問題を総括した李度勲(イ・ドフン)前外交部朝鮮半島平和交渉本部長らが含まれている。対日政策と対北朝鮮政策共に文政権の失敗を強調しながら、次々と具体的な代替案を発表すると予想される。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story