コラム

返済が一生終わらない......日本を押しつぶす住宅ローン問題の元凶は?

2020年10月21日(水)12時03分

FOKUSIERT/ISTOCK

<住宅ローンを完済する予定の平均年齢は73歳。完済年齢の上限を引き上げれば老後破産が増加するリスクが>

住宅ローンを完済する平均年齢が大幅に上昇したことで、老後破産リスクが高まっている。住宅業界は政府に「フラット35」について完済年齢の上限引き上げを求める方針で、一部の金融機関は既に引き上げに動いている。だが完済年齢の上昇は構造的な要因であり、上限年齢の引き上げだけでは根本的な解決にならない。

日本経済新聞社が住宅金融支援機構のデータを使って行った調査によると、2020年度における住宅ローン利用者が完済を予定している平均年齢は73歳だった。20年間で完済年齢は5歳上昇したが、直接的な理由は住宅取得年齢が上がったことと、ローン期間が延びたことの2つである。だが、両者の背景となっているのがマンション価格の高騰であることは明らかだ。

不動産経済研究所の調査によると、首都圏における新築マンションの平均販売価格は既に6000万円を突破しており、20年間で約1.5倍に高騰した。6000万円を超えてしまうと、もはや一般的なサラリーマンが普通に手を出せる水準ではなく、高額の頭金を用意した上で、長期ローンを組まないと購入は難しいだろう。こうした事情から年を追うごとに住宅取得時の年齢が上がり、かつ完済までの期間が長期化していると考えられる。

このままでは事実上の生涯ローン

価格の上昇が、需給など一時的要因によるものであれば、ローンの完済年齢の上限を引き上げるのも一つの方法である。だが、近年の価格上昇には世界経済の拡大による資材価格の高騰と、日本人の賃金低下という構造的問題があり、すぐに状況を変えることは難しい。実際、今後マンション価格が大幅に下がると予想する専門家はほぼいない。

仮に住宅ローン完済年齢の上限を85歳まで引き上げてしまうと、事実上の生涯ローンということになり、相続という点を除外すれば賃貸住宅との違いが限りなく小さくなってしまう。日本は長寿化が進んでいるとはいえ、政府が企業に継続雇用を求めているのは70歳までであり、それ以降は完全に未知数だ。

日本経済の低迷による日本人の購買力低下は、20年前から分かっていたことであり、マンション価格が高騰し、住宅難民が増えることも予想できたはずである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪BHP、英アングロへの買収提案の改善検討=関係筋

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story