コラム

新型コロナによる経済損失を「スペイン風邪」の歴史から考える

2020年05月19日(火)12時12分

ここで欧米各国と日本に決定的な違いが生じている。イギリスやアメリカは、終戦直後は反動不況となったが、その後は復興特需もあって経済は持ち直し、アメリカでは歴史的な好景気となった。イギリスもおだやかな成長を実現し、世界恐慌が発生するまではつかの間の安定を享受した。

ところが日本は、グローバルに進展した産業の近代化にうまく対応できず、戦後不況から脱却できなかった。ここに関東大震災が重なり経済はさらに疲弊。名門と呼ばれた鈴木商店が経営破綻するなど混乱を極めた。回復のきっかけをつかめないまま世界恐慌に突入し、最終的には無謀な戦争と経済破綻を招いた。あくまで結果論だが、大正時代に発生したスペイン風邪はまさに「暗黒の昭和」を暗示する出来事だったといってよい。

感染症の拡大は経済に致命的な影響を与えるわけではないが、経済や社会の枠組みを変える力を持っている。先ほどの「近代化」を「IT化」や「多様化」と言い換えれば、改革が進まない今の日本と重なる部分は多い。スペイン風邪の歴史は、変化を忌避してきた日本に行動を促しているように見える。

<本誌2020年5月26日号掲載>

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、S&P500年末予想を5500に引き上げ

ビジネス

UAE経済は好調 今年予想上回る4%成長へ IMF

ワールド

ニューカレドニア、空港閉鎖で観光客足止め 仏から警

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 8

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story