コラム

【2+2】米中対立から距離を置く韓国、のめり込む日本

2021年03月22日(月)06時01分

米韓2プラス2の共同声明は中国批判をしなかった(写真は3月18日、韓国大統領府に米国務・国防両長官を迎えた文在寅大統領) Kim Hong-Ji-REUTERS

<中国にもアメリカにも依存しない民族自立を理想とする韓国は、国際情勢の潮流の変化を利用して、「何もしない外交」を行使し始めた>

依然として続く深刻な新型コロナ禍の中、バイデン政権の外交政策がようやく始動しつつある。そしてその最初のターゲットとなったのが、日韓両国。バイデンは自身の初の外遊先をこの日韓両国に決め、その準備をも兼ね今月にはブリンケン国務長官とオースティン国防長官を訪問させた。訪問先の両国では、「2+2」と通称される外交・防衛を担当する大臣の合同会合が行われ、ドイツと並ぶ在外米軍の駐屯先である両国政府との意見交換を行った。

周知の様に、この二つの「2+2」において顕著だったのは、アメリカ側の強い中国への非難のトーンだった。とはいえその結果として出された共同声明は、東京とソウルでは大きく異なった。即ち、東京で出された日米両国政府の共同声明では、アメリカの主張をそのまま反映する形で、中国への強い非難の言葉と北朝鮮の「完全な非核化」の必要が盛り込まれた。尖閣問題において中国と緊張関係が高まる中、日本政府に近いある人物は、「100点満点の会合だった」とこの「2+2」を振り返った。

中国を非難しなかった韓国

しかしながら、ソウルで出された米韓両国間の共同声明では、東京における声明の主たる要素であったこの二つは共に入らなかった。共同記者会見の場でブリンケンが明確に述べた様に、会談においてアメリカ側が中国・北朝鮮両国の人権問題と北朝鮮の「完全な非核化」について触れた事は明らかだったから、二つの共同声明の内容の違いが韓国側の抵抗によるものである事は明らかである。

この様な二つの「2+2」の結果の違いから、高まる米中対立の中で苦悩する韓国の状況の深刻さを指摘するのは容易い。事実、韓国の専門家の中でも、バイデン政権が今後、韓国に対してどの様な圧力をかけてくるのかを懸念する声は強くなっている。

だが、同時に重要な事は、アメリカにとってもまた、韓国をどう扱うか、はなかなか厄介な問題だ、という事だ。その理由の第一は、本コラムでも幾度も述べて来た様に、今日の韓国が経済的にも軍事的にもかつてとは比べ物にならないほど「大きく」なってしまった事である。

韓国の現在のGDPは世界12位。その規模はカナダやロシアとほぼ同じになっており、当然の事ながら、その動向はこの地域の経済的秩序に一定の影響を与える事となる。軍事費においては世界第10位。その規模は2019年現在で、日本の92%、イギリスの90%にも達している。加えてこの軍事費は文在寅政権になって毎年7%近い規模で増えている。以前も記した様に、仮にこの状況が続けば、韓国の軍事費は少なくとも計算上、日本やイギリス、更にドイツをも近いうちに追い越す事になる。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story