コラム

迅速、スムーズ、何から何まで日本と正反対......あるイギリス人の「15分」ワクチン接種体験記

2021年06月01日(火)11時02分

この状況を可能にした要因の1つは、1回目と2回目の接種の間隔を最大12週間開けるという決定だった。少数の人を完璧に保護するより、できるだけ多くの人に一定の予防効果を提供することを優先したのだ。

この決定を知って、僕は個人的にはホッとした。1回目のアストラゼネカ製のワクチン接種で異常な症状があったからだ。

腕の痛みは想定された副反応の1つで、間もなく「コロナ腕」と呼ばれるようになった。

しかしワクチンを注射した部分に、強く殴られたような筋肉の痛みが2~3日続いたと訴える人もいる。僕の場合、注射された辺りの痛みはそれほどでもなかったが、不快感は6週間続いた。その感覚が消え去る前に2回目の接種の予定を入れなくてよかったと思った。

みんなそれぞれの副反応体験を周りと交換するが、その多く(頭痛や強い倦怠感)はたまたま襲ったものだったか、数カ月ぶりの外出で緊張したせいではないかと思えた。

ワクチン絡みのジョークも飛び交った。

「オックスフォード大学のワクチン(アストラゼネカ社と共同開発)を受けたら、もう頭がよくなっている気がする」とか、「ワクチンを接種したら、マイクロソフトの製品を買いたくてたまらなくなった」だとか。後者は反ワクチン派の言う奇妙な陰謀論をからかったものだ。

反ワクチン派は国民のごく一部だが、「ためらい派」はもっとたくさんいる。特に急増したのは、EU首脳、とりわけフランスのエマニュエル・マクロン大統領がアストラゼネカ製ワクチンの安全性に関する懸念を大げさに表明した後だ。

EUのワクチン接種の遅れから注意をそらし、イギリスが先を行く状況を小さく見せようというケチな試みだった。

記念すべき瞬間に感じたこと

イギリスでは、一部の少数民族がワクチンを拒否する傾向が強いことが分かっている。英国家統計局によると、ワクチン懐疑派は全体の7%だが、黒人では3人に1人と高い。

政府はBAME(黒人、アジア人、少数民族)の有名人がワクチンを接種するよう促し、安全を強調するキャンペーンを開始した。

医学誌ランセットに掲載された論文は、ワクチン接種に消極的な人の背中を押すには、良心に訴える(「接種はウイルスを封じ込め、他の人々を守ってくれます」)よりも、利己主義に訴える(「あなた個人が安全になりますよ」)ほうが効果があることを示した。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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