コラム

自民党は一度、ネット世論戦略に失敗している。Dappiはその後継か?

2021年10月21日(木)18時12分
ツイッターのDappiアカウント

Dappiのフォロワー数は大物保守系言論人のアカウントに比べればまだ少ない Dappiアカウント/ツイッター

<今のところ、Dappiは自民党と取引のある法人アカウントというだけで背後関係はわからない。しかし万が一にも利益供与があったと判明すれば内閣は吹っ飛ぶ>

疑惑のツイッターアカウントDappiについて、やおらネット上での反応はとどまるところを知らない。立憲民主党の小西洋之議員が該アカウントから誹謗中傷を受けたとしてIP開示請求を行ったところ、Dappiは自民党と取引がある法人アカウントであることが判明したのである。

Dappiについては、ツイッターでの投稿規則が概ね就業時間内に収まっていること、或いは自民党関係者しか入手できない内部資料を基にツイートがなされていた等の事実から、自民党の関係者ではないか、という疑惑が従前から出ていた。むろん、今般明らかになった事実と突き合せれば、自民党と取引のある法人アカウントというだけで、その後背にどのような関係性があるかまでは判然とはしない。

自民党と取引のある企業が、SNSで発信してはいけないという法はないし、単に法人の社員が会社のパソコンから恒常的な連続投稿をしていただけ、と言われればそれまでだ。小西議員による名誉棄損訴訟は民事事件なので、Dappiの背後関係にどのようなものがあるかまで精査するのは厳しいと思われる(被告Dappi側に賠償命令が出るだけだろう。そもそも被告側が法廷に出てくるかどうか不明である)。刑事事件であればまた別だが、今後の展開を見守りたい。

自民党がバックにいたにしては小さい

さて、万が一の話ではあるが、Dappiが自民党から利益供与を受けたうえで野党への誹謗中傷を繰り返していたという"疑惑"が完全に真であるとすれば、不可解な点がいくつかある。これを前提とすればDappiの行為は完全に自民党の世論工作ということになるが、Dappiのツイッターのフォロワー数は約16万人(一度凍結されている)。一般のネット保守におけるフォロワー数としては相当多い部類に入るが、所謂「大物」保守系言論人のアカウントと比べれば小さい。

もしDappiが存在しなかった場合、ネット世論はどうなっていたのかといえば、全く変わらない。なぜならDappiを代替する量的なフォロワーを有する保守系言論人は幾らでもいるからである。万が一にも、自民党がDappiに依頼してネット世論工作を行ったと仮定すると、はっきり言ってあまり意味がない。

なぜなら繰り返すように、Dappiの行っていた野党への中傷や批判は、すでに他の保守系言論人が行っているからである。つまりフォロワー20万を超える"大大名"クラスの保守系言論人のアカウントは幾らでもあり、それと互換可能だからだ。Dappiの存在がなかった平行世界を考えても、現在のネット世論はまったく同じように右傾化しているだろう。はてさてならば、Dappiなるアカウントを使ってどれほどのネット世論工作が可能なのかどうか。効果のほどは計量できないものの、軽微であると思われる。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米天然ガス大手チェサピーク、人員削減開始 石油資産

ビジネス

投入財の供給網改善傾向が停滞、新たな指数を基に米N

ワールド

米エール大卒業式で学生が退場、ガザ戦闘に抗議

ビジネス

豪BHP株が3カ月ぶり高値、アングロ正式買収提案の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story