コラム

岸田政権の少子化対策はいまだに「家族主義」を引きずったまま

2023年02月09日(木)17時44分

「異次元」は名ばかり?の岸田首相(1月23日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<所得制限の撤廃で「異次元」を装うが、仔細を見れば、「子育ての社会化」を嫌い責任を家族に押し付ける体質は変わっていない>

少子化対策を進める岸田政権が、児童手当の所得制限を撤廃し、対象年齢も18歳へと拡充しようとしている。これは民主党政権の政策だった「子ども手当て」のコンセプトに立ち戻るものだが、当時の自民党はこの政策を口汚く罵り、参議院で多数派を形成していたことを背景として民主党に所得制限等を呑ませたという経緯がある。

岸田首相は「反省すべきところは反省し」と述べているが、自民党は徹底的な反省を行わなければならない。そうでなければ、子育て政策を自民党に任せることはできない。

「スターリンの」子ども手当て

日本の少子高齢化は人口動態をみれば容易に予測可能であり、古くから問題が指摘され続けてきた。政治の対応は1989年に合計特殊出生率が1.57を切った時でさえ鈍かったが、90年代後半から自治体を中心に少しずつ子育て政策が進められてきた結果、合計特殊出生率は2005年に底を打ち、一旦は微増に転じた。とはいえ自治体の取り組みにも限界があるため、民主党の高校無償化や子ども手当てなど、国が行う少子化対策が求められていた。

ところが、当時の野党である自民党は、この子育て政策を批判した。背景にあったのは、「子育ての社会化」への憎悪だ。公的支援に期待するなど甘えであり、子どもは家庭が責任を持って育てるべきだという保守イデオロギーを前面に出して、民主党の政策を攻撃した。民主党が行おうとした子育て政策を安倍元首相が「スターリンやポル・ポトがやろうとしたことだ」と批判したのは有名だ。

「子育ての社会化」に抵抗

当時の自民党の、この極端な保守イデオロギーの前景化は、民主党政権に対する単なる「逆張り」で行われたわけではない。家庭教育の推進といえば現在では統一教会との繋がりが連想されるが、伝統的・復古的な子育てを推進しようとする「親学」や「モラロジー」といった思想を唱える人物や団体との関係性も自民党は深く、様々な宗教や保守団体の影響の下での、敢えて言うが旧弊な価値観を前提とする家族イデオロギーが、自民党の政策を決定している。第一次安倍政権下で行われた教育基本法の改正でも、旧法にはなかった「家庭」に関する項目が追加され、教育の責任は第一義的に親にあるとされた。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story