コラム

パンデミック後の3つの近未来マクロシナリオ

2021年01月07日(木)14時30分

であれば日本企業に最もチャンスがありそうなのは、米プラットフォーマーへの対抗軸となることよりも、その上のレイヤーでの戦いだ。かつて日本が世界を席巻した家電も発明し,実用化したのは米国であった。日本はより神が宿る細部の改善力で商品力を高めた。GAFAもまだまだ弱い製造からのSPAモデルやMaaSなどの社会システム実装、ブロックチェーンなどを利用した特定のプレイヤーに依存しない価値交換の仕組みなどを作ることにあるかも知れない。領域、分野、企業の枠組みを超えたどのような価値交換が世界に大きな影響力を持ち、持続することができるだろうか。ともかくも、ITの視点も上のレイヤーにおいて検討したい。

シナリオ3:急進展する経済の不均衡は世界の潜在的圧力に

日本が世界に先駆けて継続してきた政府主導での金融緩和はCovid-19により世界の標準となった。過剰供給された資金は金融やITといった特定のセクターへの集中を加速している。成長産業のバランスの変化はより急速になり、 旧来の産業に依存してきた中間層の生活は厳しくなる。一方、変化を追い風として享受している層は所得を伸ばす。この格差は各国家内、国家間のいずれでも問題となる。

財政の不均衡を外部との関係において解消しようとする国家が生まれてくる可能性も高い。従来であれば軍事行動等の明示的な解消手段だけに訴えることが主流であったが、経済・情報が相互依存的な現在の環境下ではより不明瞭な形となって目にすることになる。

経済的な事件、軍事的な事件、情報戦的な事件、等の色々な形で不均衡を解消しようとする動きが表出してくるだろう。ただ、その圧力は強大であり、長きに渡って世界の様々な現象を生み出す潜在的な駆動力となることだろう。

現実的には、この大きな圧力を商機として捉える視点が大切だ。二元論的に捉えるのではなく、メタ的(超的、多元的)な視点で見つめ考えることで、事業に向けてのメリットを感じ取り的確に対応していきたい。

超長期戦略としては例えばグローバルに中間層が厳しくなる一方、急増する新富裕層をグローバルに捉えターゲティングすることなどが必要だろう。日本企業の例ではHONDAジェットのようなアプローチがわかりやすい。低所得でも生活品質を高める意識の高い中間層にも最適化したサービスや商品はまだ充分に提供できていない。アパレルや食品の領域では機能性と低コストとクオリティを共存させるようなサービス開発にチャンスがあるはずだ。また、不安定な状況下で心身の安定を高めるマインドフルネスなサービスなども大きく成長するだろう。

(本稿は藤元健太郎とD4DRのシンクタンクFPRCの上級研究員坂野泰士の共著です)

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story