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ヴィズマーラ恵子|イタリア

爆弾低気圧キアランがイタリアにもたらした甚大な被害

LocalTeam 公式YouTubeチャンネルより「泥の天使たち」トスカーナ州の洪水、泥かきにきたボランティアの青年達、2023/11/04の様子

気候変動による危機、世界各国で起こる異常気象が増加している。爆弾低気圧「キアラン」がヨーロッパで猛威を振るった。
低気圧が発達するエネルギー源は、暖かい空気と冷たい空気の温度差であるが、北イタリアでは10月最後の週は、気温の差がとても大きい週だった。
こういった寒暖差の大きい日が続くと、爆弾低気圧が発生しやすくなる。

温帯大西洋嵐は、夏の終わりから秋にかけてイタリアの緯度で頻繁に発生する。
発生源は常に海洋だが、熱帯低気圧と比べると発生域が広域になり軌道も異なる。つまり、キアランは北大西洋のジェット気流の振動と関連付けることができる。

高気圧や低気圧の移動に大きな影響を与えるのが偏西風だが、これが大きく蛇行するようになったのも近年に見られる流れである。
蛇行すると、低気圧の速度が遅くなる。低気圧の動きが遅く長期間止まるようになると、それだけ雨が降る期間も長くなり、集中豪雨の日が続き、土砂崩れや川の氾濫や倒木など、街に甚大な被害が出始める。

西ヨーロッパで影響を受けたのは、フランス、ベルギー、オランダ、スペイン、イギリス、そしてイタリアだ。

イタリアにその爆弾低気圧「キアラン」が到来する前に、既に近隣の国々で「約10人の犠牲者がすでに出ている、とんでもない暴風雨がイタリアにもう直ぐ到来する」というニュースが入った。

ベルギー-ゲントにある公園で飛んできた木が当たり5歳の男の子が死亡。
ゲントの別の都市公園でも、64歳のドイツ人女性が死亡。
スペイン・マドリッド中心部で23歳の少女が倒木の下敷きになり死亡。同じ事故で他に5人が負傷した。
フランス-エーヌ県でも倒れてきた木の下敷きになりトラック運転手が死亡。
同じくフランス-ル・アーブルで70歳の男性が、強風のため自宅のバルコニーから転落して死亡。
ドイツでは46歳の女性がハルツ山脈でのハイキング中に倒れてきた木により死亡。
オランダ-リンブルフ州フェンラユ市で、男性が折れた木に当たって死亡。

私の住むイタリア-ロンバルディア州は、10月30日から31日にかけて激しい暴風雨に襲われ、ミラノ北部全域が洪水に見舞われた。
市内を流れるセーヴェゾ川も氾濫し、ニグアルダ地区の道路が冠水した。
町中、茶色い濁流で溢れかえったが、この地域は頻繁に冠水することで有名だ。

| ミラノが抱える歴史的な問題

1世紀に渡って何百ものエピソードがあるセーヴェゾ川の氾濫

セーヴェゾ川の水源はコモ県にある。ティチーノ県との県境に近いコモ県の標高約490mに源を発し、ブリアンツァのいくつかの町に触れ、ミラノに入り、そこでナヴィリオ・デッラ・マルテサーナ川に流れ込む。
過剰建築により​​人工的に埋め立てられた川で、通称「地下川」と呼ぶ。
その特徴は、橋、交差点、狭窄部が広範囲に存在することだ。
それがたとえ小規模な洪水でも逆流や洪水の形成に寄与している。
セーヴェゾ川は、都市排水網の供給地点でもあり、平均して年に2回半、排水溝から「逆流」するのだ。

大雨が降るたびに必ず水浸しになる地区なので地域住民も慣れた出来事だが、ここまで激しい大規模な洪水は珍しい。
1975年以降、48年間でこれまでに118回、同じような洪水が起こっている。
しかし、この規模の同様の洪水は、2014年以来で実に9年ぶりだ。

実際、ミラノ市はこの問題を改善する試みが何年にもわたって行われてきたが、問題の解決には未だ至っていない。
解決策はいわゆる「格納タンク」による封じ込め工事計画というものがあり、作業は順調に進行中である。工事が予定されている4つのタンクの創設が計画されている、そのうち1つのブレッソ地区の建設作業は3年前の7月に開始され、ようやく発掘調査が完了したところである。

最大25万立方メートルの水を格納容器に流出させることができる隔壁が作動するというもので、ローリングタンクの稼働テストも終わり準備が整った。1台目は来年1月までに納入され、2台目は来年3月までに納入される予定ではある。

| トスカーナ州を襲ったキアランによる被害の実情

南西風やシロッコ風のような、南からの熱気の影響は、降水量の増加につながる悪化要因でもある。
南西からアルプスを回った偏西風が、最初に遭遇する地域は、ティレニア北部とリグーリア州、そして今回甚大な被害を受けたトスカーナ州だ。

11月2日にトスカーナ州を襲った悪天候による死者は8人に増えた。

7人目の犠牲者は、ジャンニ・パスクイーニさん(69歳)は、11月5日(日曜日)の朝、フィレンツェ のカンピ・ビセンツィオのトウモロコシ畑で遺体で発見された。この地域はこの爆弾低気圧キアラン「Ciarán」がもたらした暴風雨で、最も大きな被害を受け、800ヘクタールの土地が水没した。行方不明になっていた8人目の犠牲者はプラート在住の84歳の男性だ。安全な高齢者介護施設(RSA) へ避難するため移送中に車が流された。
トスカーナ州で最も被害が大きかった地域では、わずか3時間で257ミリという最大降水量を記録し、15日間の平均降水量を上回る量の集中豪雨に見舞われた。

アーニャ川とバニョーロ川の決壊に対応して、モンテムルロ、モンターレ、プラートという街では、約1200人が予防避難を余儀なくされた。
現在、社会サービスのケアを受けている障害者100人、65歳以上の高齢者841人、サントレッツォと南部バニョーロ地域の103人が避難をしている。

一方、被害額の計算が始まり、トスカーナ州のエウジェーニオ・ジャーニ州知事が明らかにした最初の試算によれば、官民合わせて3億ユーロ(約483億円)に上るという。
しかし、まだこれは部分的な推定額であり、確実な被害額が出るには後1週間ほどはかかるだろうと言っている。

特に、シブ海辺リゾート組合は施設への被害を1億ユーロ(約160億円)と見積もっている。

洪水の被害を受けたトスカーナ州5県では、水陸両用車両4台、ヘリコプター3機、水中ダイバー、河川部隊、増援部隊が到着した。150台の救急車両が出動し、消防士570名が救助活動を行なった。
地下道で車に閉じ込められた人々や道路や建物や地下室への浸水から逃げ遅れた人、倒木で身動きが取れない人など、数多くの救助活動が行われ、2,500人が救助された。

全国ボランティア団体5つから1000人以上のボランティアが名乗りを上げ、次々に被災地に到着した。
ボランティア団体以外の人が他県から押し寄せることは、逆に救援活動の妨げとなるため、知事はソーシャルメディアで、悪天候の影響を受けた地域への旅行を控えるよう呼び掛けている。

11月5日(日曜日)も激しい雨が降り悪天候だった。ステラ川が再び氾濫し、多くの家族にとっては、既に悲劇的な状況であるにも関わらず、さらに悪化した悪夢の夜となったようだ。
最初の洪水を苦労し、かろうじて乗り越えたところに、次の洪水がまた襲ってきたのだ。

被災地の状況を伝えるライブニュースでは、70cmの高さまで家の中に入り込んできたという水と泥を掻き出す作業をしながら、絶望と怒りの涙で疲れ切っている人々の姿が映し出された。

イタリアでは、中東戦争についてよりも、このトスカーナ地方の洪水被害についての現状をメインで連日報道している。


イタリア消防団 公式YouTubeチャンネルより
トスカーナ消防団403部隊のヘリコプター・ドラゴが浸水地域の上空を飛行している。

水が出ない問題。

サン・ピエロ・ア・ポンティの集落とカンピ・ビセンツィオ、ポッジョ・ア・カイアーノでは、水道水が飲めない状態である。
中心部近くのエリアでは給水ポンプが夜通し休みなく稼働している。
地域全体にある給水ポンプは80台、実際、利用可能なものは55台しかない。
もっと給水ポンプは必要になる。
水道事業に関しては、パブリアクア社が水道橋の汲み上げが再開されたと伝えた。カーザ・ロッサの工場は結局水没しており、セアーノとカルミニャーノでのサービスが完全に戻るには数時間かかるだろうと述べている。

汚泥の処分方法については、5月17日にイタリア北部のエミリア・ロマーニャ州を襲った未曾有の大規模洪水災害での経験を活かし、「エミリア・ロマーニャモデル」に従うと定義された。

【関連記事】イタリア事情斜め読み エミリア=ロマーニャ州で大規模洪水が起こったワケ

エミリア・ロマーニャモデルの手段は、道路や地下室にある水を除去し、泥で詰まって流れない下水道を解放することができる排水管洗浄業者との枠組み合意を行なった。
トスカーナ州もこれからエミリアロマーニャ州のように排水管洗浄業者にしか対処できない技術的側面での合意が必要で、それは、無駄な投機的現象を避けるためであるからだ。
そして、既に少なくとも15万トン出るという廃棄物を処理する必要もあり、緊急事態である。

電力に関する重大な問題

イタリアの大手電力・エネルギー会社のエネル(Enel S.p.A.)によると、停電により電力が供給されていない世帯が11月5日(日曜日)で1万6,000世帯であった。11月6日(月曜日)現在、依然として3,000世帯あると発表された。


| 頻繁に襲ってくる嵐は気候変動と関連している

北大西洋は2023年に大幅な温暖化を記録し、これは30年間の平均と昨年まで遡った過去の記録をはるかに上回った。
爆弾低気圧キアランに似た嵐は常に発生していたが、気候変動によりその嵐の勢いはより激しくなっており、近年ますます頻繁に発生し、増幅している。

この地球の気候変動は人間がもたらした人災であるのは明らかだ。

短期的に激化する異常気象の現象に対処するための備えを整え、長期的に気候変動の緩和に努めるべきではないだろうか。

日本は、気象庁によると2023年は「スーパーエルニーニョ現象」が80%の確率で発生すると予想されている。全国的に「暖冬」になるとも言われているが、急な寒暖差による極端な異常現象、突然の雨や嵐、雪が降るなど起こり得る可能性もあるので、十分な注意と備えが必要だろう。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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