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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

検問拒否で警察官に射殺された17歳 警察への怒り沸騰でフランスが燃える 

拳銃を向けられずともなかなかの威圧感のフランスの警察   Pixabay画像

事件はパリ近郊、ナンテール(オー・ド・セーヌ県)RERナンテール・プリフェクチュール駅近辺で起こりました。事件が起こったのは、朝8時半頃の通勤時間帯のことです。この地域を警備していた警察官2人が危険な運転をしていた車を発見し、車を追跡、対象車両を停めて検問していたところ、運転手が車を急発車させたところで、警察官が発砲し、車は数十メートル走ったところで、障害物に衝突して車は止まりました。かけつけた救急隊による必死の救命措置も虚しく、車を運転していた17歳の未成年の青年が死亡しました。

国民の怒りを倍増させた警察官のウソ

この事件はすぐに警察官の発砲事件として報道され、武器を使用した警察官は、「検問中、運転手が車を急に発車させたために、同僚の警察官がひき殺されそうになった・・」と報告があがっていると発表されていました。つまり、これは正当防衛であったという説明です。

しかし、この最初の報道からまもなく、事件現場の検問の様子の複数の映像があっという間にSNS上で拡散され、警察官の釈明がウソであったことが明らかになりました。17歳の青年が警察官によって射殺されたという事実だけでも衝撃的な事件のうえに、警察官がウソをついて、殺人を正当化しようとしたという事実が今回の事件への国民の怒りをさらに大きくしてしまいました。まさにこのウソが火に油を注いだ感じになり、文字どおり、フランス各地で油を注がれた火が燃え上がることになったのです。

複数の映像によれば、2人の警察官が黄色い車を停車させ、かなり緊迫した様子の押し問答が続いています。警察官2人は車の横におり、そのうちの1人が拳銃を運転手に向けて、威嚇するように立っています。この検問を振り切ろうとしたのか、運転手が急に車を発車したのと同時に警察官の1人が銃を発砲し、銃声が聞こえます。車は数十メートル走るとそのまま埋め込まれたボールに追突します。その後、救急車が到着して、撃たれた青年の心臓マッサージをしています。

現地の防犯カメラに加えて、偶然、現場に遭遇した人々が撮影した、この日常のひとコマが、こんなにも映像に残されていることには驚きでもありますが、この複数の映像のおかげで、警察官の報告がウソであったことが一目瞭然、白日のもとにさらされました。この映像がなかったら、警察官の正当防衛ですまされていたかもしれません。

しかし、この事実は、警察への不信感と怒りをより一層、煽ることになりました。事件当日の夜は、ナンテールの街は、警察への怒りを爆発させる者たちが暴れはじめ、ゴミ箱、車、市庁舎などが燃やされ、手が付けられない状態になり、1,200人の警察官、憲兵隊が出動する大騒動に発展しました。

警察への怒りはフランス全土に広がりエスカレート

事件翌日のナンテールは、前日に燃やされた車などの撤去作業に追われると同時に、早い時間帯から厳戒態勢が敷かれ、2,000人の警察官、憲兵隊が配置されていたために、前夜ほどの暴動には発展しませんでした。しかし、SNSの威力は恐ろしいもので、この事件を機に警察への怒りはパリ、リヨン、ディジョン、トゥールーズなどの他の都市においても爆発し、車だけではなく、バス、トラムまでもが燃やされ、同じオー・ド・セーヌ県のアミアンではメディア図書館が完全に焼失し、近隣の市庁舎も破壊されています。

この日は、フランス全土で暴動のために150人が逮捕される大惨事になっており、翌日の夜には、フランス全土で4万人の警察官・憲兵隊が警戒にあたっています。もはや、フランス全土を揺るがしかねない暴動に発展しつつある事態に政府は大臣クラスが街に出て、国民の声を聴き、必死に国民感情の火消しにあたっていますが、暴動の起こる現場では、暴徒の警戒にあたる警察官や憲兵隊が、致し方ないとはいえ、暴徒に向けて、銃を構えて対応するという光景には、ため息も出ません。

検察の早期対応と2017年に制定された「公安法」

このフランス全土に広がる警察への抗議行動の高まりを抑えるために、検察は事件の2日後の朝に記者会見を開き、「今回の警察官の発砲は、警察官の武器使用の法的条件を満たしていなかった」との見解を示し、「現在、拘留中の17歳の青年を射殺した警察官の公判前拘留」ならびに「公的権力を持つ者の意図的殺人の容疑での捜査を開始すること」を発表しました。

フランスでは、ここ数年、「検問拒否で警察官が容疑者を射殺」という驚くべきニュースを時々、聞くようになっていた気はしていましたが、今回のような騒ぎになったのは初めてのこと。これは被害者が未成年であったことや、警察官がウソをついて射殺を正当化しようとしたこと、なにより、事件現場の動画映像が拡散されたことによるものであると思いますが、遅かれ早かれ、警察官の発砲については、問題になることであった、また、問題にならなければならなかったと思っています。

この警察官の検問時の発砲については、明らかに2017年2月の公安法(法執行機関による銃器使用に関する法律を含むもの)の採用により、「警察を物理的に脅迫する服従拒否」を含む5つの状況を拒否することで武器使用の権利を認めるようになったことが明らかに関係しています。2022年には、検問拒否のために13人が警察官に射殺されているという恐ろしい数字、これまで騒ぎにならなかったことが不思議なくらいです。ふつうに考えて、相手が武器を持っているならいざ知らず、検問時に警察官が拳銃で威嚇するなど、ちょっと考えられないことです。

この事件を機に、検問拒否による発砲事件が減少してくれればよいのですが、一方では、何かあるたびに放火して暴動を起こすという国民(とはいえ一部の人々ですが)のやり方もどんどんエスカレートしているようで、こんなことをされては、銃で威嚇しなければならない警察の立場も正当化せざるを得ない気もしてしまいます。また、これに乗じて暴動が起こる場所もまた、どちらかといえば、貧因層の多い、治安の悪い、警察とのかかわりが多い場所であることは仕方ないことではあるものの、絶対的な警察権力のもとに、ただただ屈服することはしないという抗議のあらわれではないかと思います。

今回は何よりも17歳の未成年の若者の命が、国民を守る立場であるはずの警察官によって、不当に奪われてしまったという事実は大きいのです。

現在のところ、若者の怒りは鎮まることはなく、被害者家族が呼び掛けて行われた追悼デモも途中で暴徒が暴れはじめ、これ以上の被害を避けるために、パリでも一部のバスやトラムが21時以降は運行停止、被害が激しいパリ近郊の一部地域ではまさかの夜間外出禁止のロックダウン。破壊行為や放火などの別の犯罪に地域住民は震えています。怒りの表現の仕方が間違った方向に向いています。もう暴れている人々も何のためにやっているのか?現在の状況は被害者家族の気持ちは置き去りにされています。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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