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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

「日本から学ぼう」を訴える候補も... 総選挙を控えるイラクの今

アルビル市内に掲げられる選挙ポスター ©筆者撮影

来週10月10日に総選挙を控えるイラクでは今、その日に向けて緊張が高まっています。

約2,500万人の有権者がイラクにはいますが、今回の予想される投票率は29%と、2004年に初めて普通選挙が実施されて以来最低の投票率になるとも見られています。ちなみに2005年に行われた議会選挙では投票率は80%を超えており、今回予想される低さが比較して分かるかと思います。

選挙に向けて、すでに様々な制限措置も発表されています。アルビル、バグダードやバスラにある国際空港は前日の夜9時から選挙翌日、11日の朝6時まで閉鎖が決められており、選挙当日はテロ防止目的で二輪バイクと運輸トラックの公道の通行を禁止する徹底ぶりです。内務省の職員や治安部隊を除いて県境を跨いだ移動も全て禁止されます。

また公立の学校も月曜日から選挙日の来週日曜日までお休みとなっています。

過激派組織ISIS(イスラム国)も選挙の妨害を発表しており、特にここ数日、中部ディヤラ県を中心に治安部隊を狙ったテロが増えてきています。

  

イラクの選挙制度と現在の政治状況

2019年秋に起きた大規模反政府デモによりアブドゥル=マハディ前首相が退陣に追い込まれ、引き継いで2020年5月に現在のカーズィミ首相が就任。彼は選挙の実施を約束してから約1年半の月日が経ち、来週やっとの実施となりました。

イラクでは18の県をベースに選挙区が分けられ、政党名簿比例代表制で320議席(内、女性のために83議席)に少数派のための9議席を加えた329議席が争われます。

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アルビルを拠点にする政党、クルド民主党(KDP)本部前 ©筆者撮影

現在、イラクの国民議会には12の会派に加えて無所属など諸派の議員や少数派の議員がいます。議会内ではシーア派やスンニ派の5会派に少数派や無所属の議員の一部が加わり多数派を形成して議会運営を行っており、クルド人会派やイラン系のシーア派の会派が野党となっています。

しかし行政府である内閣は議会とは全く違った形が取られており、国民連合政府を標榜し野党も含めた各ブロックから大臣を推薦してもらい、任命をしています。

例えば内務大臣はイランに近いシーア派ブロック出身の人が担当しており、外務大臣はクルド人の政党から、また国防省はスンニ派のブロックから任命しており、国民連合政府という形をとっていることが分かります。

その最たるものとして、国家の最高権力者である首相、大統領、国民議会議長もシーア派、スンニ派、クルド人のブロックに割り振られており、現在のカーズィミ首相はシーア派、サーレハ大統領はクルド人、ハルブーシー議長はスンニ派の政治家です。

このように要職を分担させることで各派閥の対立を緩和させることにはなりますが、逆にこれが競争のない利権となり新たな汚職の温床であるとも言われています。

  

「日本から学ぼう」を訴える候補も

さて、固い政治の話を置いておいて、最後に先日アルビル市内を走っている時に見つけた面白い選挙ポスターをご紹介したいと思います。

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ファイサル・アフマド・ホシュナウ候補の選挙ポスター

こちらのちょっと安っぽいポスターはアルビル県で無所属の候補として出馬しているファイサル・アフマド・ホシュナウ候補のポスターです。

私が目を留めた理由は、選挙ポスターに大きく書かれている文字、"japan3000"という文字でした。

このファイサル候補、Facebook上で"Learn from Japan in Kurdish"(リンク先にページがあります)というページを運営しており(japan3000はアカウントのドメイン名)、クルド語で日本の技術や生活を中心に紹介しています。

そんな彼の主張は、「日本から学び、日本人のようになれば私たちも日本のような経済成長が達成できる」というものです。

ファイサル候補は5年間日本に仕事で移住しており、そこで多くの日本の技術に触れました。特に立体駐車場が好きなのか、「これをイラクでも導入すれば交通渋滞が緩和される」といった主張も見られます。

私自身、彼のマニフェスト動画を通訳してもらいながら見たのですが、なかなか発想がぶっ飛んでおり少し笑ってしまいました。(ただ彼はもちろん大真面目です)

「ホシュナウ」という彼の一族はクルド人の中でもかなり有力なのですが(事実、今のアルビル県知事もこのホシュナウ一族の人です)、残念ながらファイサル候補は無所属のために当選の可能性は極めて低いでしょう。

ただ日本車が街中を走り、日本の製造業をいつも褒めてくれるイラク人を象徴する候補だなと、彼の話を聞いて思いました。

後日、選挙結果をもとに別の記事でイラクの今後について考察をしたいと考えています。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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