World Voice

powerd_by_nw

悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

イラクにおけるLGBT+コミュニティの苦難

© ABHISHEK KUMAR SAH - iStock

先日、地元イラクのニュースでトランスジェンダー男性のミショさんが父親と異母兄弟に殺害された可能性があるとの報道がありました。

それによれば、「アルビル県に暮らすミショさんは6月初めに助けを求める電話を母親にしたが、その後連絡が取れなくなり消息を絶った」とのことでした。

トランスジェンダーを公表しており、イラクの性的マイノリティのために活動していたミショさんは以前より父親たちから殺害を示唆する言葉を受けており、家族による「名誉殺人」の可能性が高いと見られています。トランスジェンダーである息子を支援していた母親と姉も家族から脅迫を受けているそうです。

  

イスラム教とLGBT+

現在、イスラム教が主流である国の内、世界10ヵ国にてLGBT+の人々は有期刑や死刑の対象とされています。

これらの国ではイスラム教の聖典であるコーランの言葉(※)や預言者ムハンマドの言行録と言われるハディースの一説を根拠にしていますが、前近代まではイスラム教の文化圏でも同性愛は見られており、近代化・西洋化に対する反動が理由であるとも見られています。

支配地域においてイスラム法を厳格に適用することを目指した過激派組織ISIS(イスラム国)が、2014年12月にイラクの都市モスルにて、ゲイの男性を建物の屋上から突き落として殺害した映像は世界に衝撃を与えました。

イラクでは2003年までは性的マイノリティであることは犯罪であり、有期刑の対象とされていましたが、米軍を中心とした有志連合がフセイン政権を打倒し新憲法が制定されると、その違法性自体はなくなりました。

しかしLGBT+であること自体が犯罪ではなくなったとしても、その他の法律、例えば「公然わいせつ罪」により処罰を受ける可能性があり、またそれ以上にシーア派の急進派が処刑部隊を組織し、LGBT+を公言する活動家を暗殺するという事態が今日まで続いています。

また北部のクルディスタン地域においても、2010年には女性などの社会的弱者の権利向上を目的とする運動の一環で同性婚を実現させようとする動きもありましたが、同地域内のイスラム教の急進派の反対運動により白紙にされた過去があります。

法的に非犯罪化されたとはいえ、イラクの性的マイノリティの人々を取り巻く環境は未だ危険なものであると言わざるを得ません。

イラクで活動するLGBT+支援団体によれば、2017年の一年間だけで少なくとも220人もの人が性指向や性自認を理由に殺害されています。

  

性的マイノリティが難民としても認められる

近年の性的マイノリティの人々の世界的な権利向上運動も加わり、出身国において迫害に対象とされるLGBT+の人々に対し国際社会も支援の手を拡げようとしています。

2018年から2年間行われた調査で、ここ数年、性指向や性自認を理由にした難民認定が欧米で増えてきており、彼らの出身国(サンプルでは23ヵ国)の内、13ヵ国がイスラム教が主流の中東やアジアの国でした。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も、性的マイノリティの難民が第三国に避難・定住できるようにガイドラインを作成、米国など先進国に対し性自認や性指向を理由として迫害を受ける人々の保護を積極的に行うよう求めています

  

イラクを変えようとするLGBT+市民団体の活動

しかし自国において差別の対象とされるLGBT+の人々は、外国に脱出するだけでなく、イラク国内でも啓発活動や支援活動を通して社会的な差別に対抗を続けています。

イラクでは2015年に創設され、性的マイノリティの人々を守り、社会へ権利向上を訴える活動を続けるIraQueerや、クルディスタン地域でもともと女性の権利向上を求め運動を続けており、近年LGBT+の人々を守る活動も行っているRasanといった市民団体が、イラク社会に根深く残るLGBT+の人々に対する嫌悪の感情と、政府に対して性的マイノリティの人々の保護を積極的に行うよう求める活動を続けています。

宗教に根差した差別ということもあり一朝一夕にどうにかなる問題ではありませんが、イラクのLGBT+の人々の命と権利が守られる日が来ることを願ってやみません。

  

※「ロットの人々」というコーランに書かれている物語。ロットの人々が同性での性交渉を行ったことに神が怒り、石の雨を降らせたと書かれている。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ