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ラッシャー貴子|イギリス

ラッシュフォード選手、その後のあれこれ - 新しいプロジェクトは子どものブッククラブ

新しいプロジェクトは子どものためのブッククラブ

そしてやはり先週、彼は子どものための新しいプロジェクトの立ち上げを発表した。

その名も「マーカス・ラッシュフォード・ブッククラブ」と名付けられたこのプロジェクト。児童書の大手出版社マクミラン・チルドレンズ・ブックスと協力して、新たに本を刊行したり、恵まれない家庭の子どもに無料で本を配ったりするほか、書くことや挿し絵を描くことに興味や才能のある若い人たちを支援するそうだ。対象になるのは5歳から18歳と幅が広い。ラッシュ本人もツイートで「17歳で本を読み始めてからものの見方も気の持ちようもすっかり変わった」と自分の読書経験を話している(読書好きだったなんて、ますますファンになってしまう)。

続けて彼は「もっと早くに本をきちんと読む場に出会っていたら、と思う。でも、まず食べものの調達が最優先の家庭で、そういう余裕はなかった。(子どもの頃に本を読んでいたら)本の世界に逃げることもできたのに」とも言っていて、経験したことのない者には想像できない苦労がしのばれて胸がつまる。彼はつい10年前には自分も無料給食やフードバンクのお世話になっていたと公表しているのだ。逃げ出したいほど辛い時があったのに、そこでひねくれずに、後に続く人たちを応援しようと思えるなんて、若いのに本当にえらいなあ。

さらに続く「どの子にも本を読んで現実逃避するチャンスを与えてあげたい」という彼のまっすぐで温かい言葉には、今度は心がじゃぶじゃぶ洗われる。まぶしくてめまいさえする。スポーツ選手はマインドのトレーニングもするものだろうけど、それがサッカー以外にも活きているのがすばらしい。

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(写真:solovyova-iStock)

読書を好きになるかどうかは本人次第だけれど、機会はみんなにあった方がいい。読んだ本がおもしろかったら、それを話し合える仲間や次に読む本をアドバイスしてくれる人がいると、きっと励みになると思う。これまでにも同じような活動をしてきた団体はもちろんあるとはいえ、やはり人気者の名前が出ると若い世代にダイレクトに伝わりやすくて、広まりやすいだろう。季節がクリスマスに向かう今の時期に立ち上げが発表されて、クリスマスプレゼントに本を選ぶ人も、慈善団体への寄付や協力も増えるのではないかしら。

プロジェクトでは、ラッシュ自身も何冊か本を執筆することが決まっている。来年5月刊行予定の最初の本のタイトルは「きみはチャンピオン:才能や好きなことを見つけてベストな自分になろう(筆者仮訳:原題はYou Are a Champion : Unlock Your Potential, Find Your Voice And Be the Best You Can Be)」。ブッククラブが掲げる「他者への理解」という考えを反映して、登場人物にもこれまでより黒人やキリスト教以外の宗教の信者や女性が増えるかもしれないとのこと。それぞれの章がラッシュ自身の経験談で始まると聞くだけで、もうファンが飛びつきそうだ。執筆には、ジャーナリストやスポーツ心理学者がサポートに加わると公表されている。(手伝ってもらいますとはっきり認めちゃう潔さがまたかっこいいではないですか!)

ラッシュフォード選手は先週、一般から寄せられた本を読む子どもの写真をインスタグラムの自分のアカウントでアップしていた(これはまだプロジェクトで配った本ではなさそう)。嬉しそうに本を手にしている子どもたちの後ろには、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターグッズが見えることが多く、彼の人気ぶりと影響の大きさを改めて感じずにはいられない。わたしも昔は子どもだった者として、読書好きの一人として、ラッシュフォード選手のブッククラブの活動を心から応援している。

(インスタグラムの投稿はストーリーだったので、24時間で消えてしまって残念。なので別の投稿をツイッターから。これはラッシュから手紙の返事がきたと知って喜ぶ子どもたち。すごい人気でしょ?)

おまけ:

ちなみに今回ラッシュのツイートへのリプライを読んでいて、英国ではBook Trustといいう慈善団体が子どもに無料で本を配っていることを知りました。これまでに一度も自分の本を手にしたことがない子が英国に38万人以上もいるということも。

この団体では一度だけの寄付も毎月継続の寄付も受け付けていて、金額も自分で決められます。規模の大きなことは人気者にお任せして、まずわたしは自分にできることから始めようと思います。

 

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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