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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

ペリエ・ヴィッテル・コントレックス ミネラルウォーターがミネラルウォーターではなかった衝撃

今回、問題となっているミネラルウォーターの一部 どれもよく目にするものばかり・・  筆者撮影

水道の蛇口を開けば出てくる水をわざわざ買うということが習慣になって久しくなります。このボトル入りの水を買うということは、健康に留意するからこそ、お金をかけ、その製品に深い信頼を寄せてのことであるためであるだけに、裏切られた憤慨は計り知れないものがあります。今回のスキャンダルは、世界ナンバーワンのミネラルウォーターグループ・ネスレウォーターズとソースアルマグループのブランドに関するもので、世界中の誰もが知っているようなミネラルウォーター、ペリエ、ヴィッテル、クリスタリン、コントレックス、サンヨール、ヴィッシー、セレスタン、サテルドンなど約30種類のボトルウォーターが対象となっています。

フランスでは、ラジオ・フランスとル・モンド紙の調査により「ネスレウォーターズ、ミネラルウォーター精製違法処理に検察捜査が開始された」というスクープを発表し、検察が捜査にかかるまでの経緯を説明しています。

発覚は2020年の内部告発が発端

事の始まりは、2020年、アルマグループの工場の従業員からの報告により、競争・消費者問題・詐欺防止総局(DGCCRF)が捜査を開始。DGCCRFは、この工場がミネラルウォーター規制に準拠しない処理を行っていることを発見しました。これにより、硫酸鉄と工業用CO2の注入、認可されている基準値にあたらない精密ろ過、さらには、ミネラルあるいはスプリング水の混合が行われていることが発覚し、120ページを超える膨大な報告書が提出されています。この時点では、同グループは、「我々は、いかなる違法処理も行っていない」と事実を否定し、一部マスコミが部分的に報道したものの、この時点で大きく注目を集めることはありませんでした。

しかし、この調査の一環として行われたグループの顧客リストの分析により、この分野のメーカーのかなりの割合が未承認のフィルターを購入していることが発覚し、この中に農業製品産業の巨人である「ネスレウォーターズ」の名前が発見されたのです。

単独でフランスのボトル入り飲料水市場の3分の1以上を握るスイスの多国籍企業ネスレは、その後、経済・産業大臣との面会を要請。2021年8月末、完全機密のもとで秘密裏に行われた会議の中で、ネスレは規制に準拠していない精製法を使用していたことを認めたうえで、経済産業省に対して、ネスレグループが使用している水源はもはや汚染されているため、こうした処理がなければ、ミネラルウォーター工場の操業を継続することはもはや不可能であると説明しています。

刑事訴訟法第40条によれば、「犯罪・軽犯罪の事実を知った場合は直ちに検察に連絡しなければならない」はずが、政府は裁判所や欧州当局に通知しないことを決定。このグループは違法行為によるミネラルウォーターの精製を行っていたのですから、それは違法行為、つまり犯罪行為なのにもかかわらずです。欧州内においても、「ナチュラルミネラルウォーターに関する法令」というものがあり、欧州加盟国のナチュラルミネラルウォーターが規制に準拠していない事実があった場合は、直ちに欧州委員会、加盟国に通知しなければならないことになっているにもかかわらず、フランス政府からはいかなる情報も発信されていません。

この完全機密の経済・産業大臣との会議の中で、ネスレは、逆にこれらの禁止されている精製法を認めることを求めており、つまり、違法行為を行っておいて、違法行為にあわせて規制を変えろと言っているのです。そして、さらに問題なのは、その会議は完全機密で行われ、その内容が一切、公開されずに、政府もこの事実を隠蔽していたことです。

ミネラルウォーターの分類と定義

公衆衛生規定では、元の純度によって区別される「ナチュラルミネラルウォーター」(ペリエ、ヴィッテル、エビアンなど)と、「湧き水」(クリスタリン)と、「処理によって飲用可能となった水」の3種類のカテゴリーを定義しています。「処理によって飲用可能となった水」に関しては、飲料用水道水と同じ種類の処理が認められている一方、「ナチュラルミネラルウォーター」や「湧き水」には同じことが当てはまりません。「ナチュラルミネラルウォーター」や「湧き水」は、地下水の深部から汲み上げられるため、通常は、汚染や公害から保護されており、原則として微生物学的に健康であるという共通点があり、非常に限られた数の精製処理のみが許可されています。したがって、カーボンフィルターやUVフィルターなどの浄化システムの使用は厳しく禁止されており、濾過閾値が 0.8ミクロン以下であることを条件として、特定のフィルターのみが許可されています。

フィルターは鉄やマンガンの粒子などの特定の化合物を水から除去することのみを目的として、あくまで例外的に使用されるものでなくてはならず、これらのフィルターはいかなる場合においても「水の微生物学的特性を変化させる目的であってはならない」とされています。ナチュラルミネラルウォーターは、その水、「本来の純粋さ」が特徴であるため、基本的には精製しないものであるとされているのです。

消費者がボトル入り飲料水の品質に非常に高い信頼を寄せているのは、この「本来の純粋さ」のイメージがメーカーの熱心なマーケティングによって培われたものであり、倹約家のフランス人が蛇口から出る水よりも100倍高価な水を年間何百ユーロも投じて購入しているのは、何よりも、それが「より純粋」であり、「より健康的」であり、「健康に良いはず」だと信じてきたからに他なりません。

しかし、ネスレグループのナチュラルミネラルウォーターは、「純粋」あるいは、「天然」というものではありませんでした。

地球環境問題と産業優先の社会の仕組み

2020年の従業員からの内部告発から数年後、今回のスクープ記事によって、ネスレは水源が汚染していたことを隠し、何年もの間、禁止されている精製システムを使用し、水域の安全を維持してきたことが明らかになりました。ここで、浮き彫りになるのは、まず、これまで健康にもよいとされていた豊かな水源が汚染されているという地球環境問題です。

干ばつや洪水などの極端な現象が相次ぎ、気候や環境条件が変化し、周辺での人間の活動が拡大しているために、湧き水であるナチュラルミネラルウォーターの水源は汚染され始めているということは、当然、あり得ることだったわけです。大気汚染や気候変動は比較的わかりやすい現象なのですが、土や湧き水にも影響が及んでいることは自明の理。しかし、この事実に一番に気付いていたミネラルウォーターの製造会社がこの事実を知りながら、それを隠し、違法とされる精製法を使用して素知らぬ顔をして、長い間、何食わぬ顔をしてミネラルウォーターを売り続けてきたということは大変、罪深いことです。

また100歩譲って環境汚染のためにこの違法な濾過が必用であったとしても、健康リスク、特に微生物学的リスクが完全に管理されているという確証はありません。さらに心配なのは、資源の質の不足を補うために導入されていた措置、硫酸鉄や工業用CO2の注入、さらには、ミネラル、スプリング水の混入などは、偽のセキュリティを装ったものであり、これらが健康リスクを引き起こす可能性があり得るということです。

また、それが発覚後も政府は、これを知りながら、同企業と秘密裡に会議を進め、省庁間会議では、産業界の要請により、法令の修正により、この行為を許可する可能性を検討していたというのですから、この大会社相手に政府も産業優先、資本主義の行き過ぎを止めることができず、その安全性と資本主義の境界線を逸脱する方向にあるということは看過することができません。

表面では、環境問題に真剣に取り組んでいる姿勢を示しつつ、このようなことが明らかになるたびに、本当に他にやっている環境対策問題にまで疑問を持ってしまいます。

私も長い間、子供の健康のためにと、せめて毎日飲む水くらいは・・と、買い物に行くたびに、重い水を買っていました。清涼飲料水やアルコール飲料などから比べれば、たかが「水」、そこまで高価なものではありませんが、累計すれば、大変な金額と労力をかけてきただけに裏切られた思いは強いのです。そして、製造会社はもちろんのこと、政府までもが隠蔽してきたことは、とても残念であるとともに、行き過ぎた資本主義に疑問を持たざるを得ません。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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