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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

虐殺を生き抜いた街、ハラブジャを訪問

ハラブジャ・モニュメント ©筆者撮影

しばらく前のことになるのですが、ハラブジャというイラクのクルド自治区にある街を訪問する機会がありました。

イラクの中でもイラン国境に接する東部にあるハラブジャ。

最寄りの大都市であるスライマニヤ市から車で一時間半ほど走ったところに位置する、人口約25万人の街です。

春は山間部に近く美しい緑で溢れ、この地域で採れる甘く大きなザクロは、秋になるとイラク中に出荷される一大名産です。

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ハラブジャ市の位置 ©Google map

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市場に並ぶハラブジャ産のザクロ ©筆者撮影

  

化学兵器攻撃の傷跡残る街、ハラブジャ

ハラブジャの名前を世界に伝えたのは、1988年3月16日に起きた事件がきっかけでした。

イラン-イラク戦争の終戦が近づく1988年の初め、1982年よりイランを支援していたクルド人勢力は旧フセイン政権のイラク軍により度重なる攻撃を受けていました。特に通称「アンファール作戦」という1986年から始まった一般市民をも巻き込む虐殺作戦では、最大で18万人にも上るクルド人が犠牲になりました。

ここハラブジャで3月16日に起きた化学兵器攻撃、またの名を「血の金曜日」と呼ばれる虐殺事件は、この日と続く数日で推計5,000人の命を奪った「アンファール作戦」の中でも最も非道な事件でした。

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化学攻撃の瞬間を撮った写真(資料館の展示から) ©筆者撮影

現在、この虐殺を忘れないためにハラブジャ市内には「ハラブジャ・モニュメント」という記念碑と資料館が建てられています。

クルドの旗がはためく入り口には、実際の攻撃で使われた爆弾の残骸がそのまま展示されていたり、遺体を運んだピックアップトラックも当時のまま保管されています。

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化学攻撃に使われた実際の爆弾 ©筆者撮影

資料館の中は、クルド人の1940年前後の写真から始まり、その近代の歴史を振り返る場から始まります。

そこを抜けると一気に空気が変わり、マネキン人形が使われた虐殺後のハラブジャの様子を体験できるスペースへと進みます。

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虐殺後のハラブジャを再現したスペース ©筆者撮影

ここを通り犠牲者の名前の彫られた記念碑を過ぎると、当時の虐殺後の実際の写真を展示した部屋へと進みます。

この部屋は目を覆いたくなるような写真で溢れています。ここでも載せることができません。

苦悶の表情を浮かべた遺体の写真、特に子どもたちの亡骸の写真は化学攻撃のもたらす残虐非道な結果を私たちに突き付けてきます。

外に出て、ハラブジャの空気を吸い、「何故こんなことが起きたのか?」「どうやったら人がこんなことを出来るのか?」と、しばらく自問をし消化する時間が必要になる場所。それがここ「ハラブジャ・モニュメント」です。

  

今日まで残る傷跡

虐殺から33年が経った今日、ハラブジャの街は日常を取り戻しています。市場も活気であふれ、クルディスタンにある一般的な街です。

しかし、事件は解決された訳ではありません。今年の調査で未だに486人が攻撃による重度の障がいを負っており、少なくとも142人の子どもたちが安否不明のままとなっています。攻撃を指示したとされる旧フセイン政権の幹部は2003年のイラク戦争後に死刑となりましたが、ハラブジャのサバイバーたちにとって、正義がなされた訳ではありません。

33年という時が経っても、心の傷も癒えていない人もいます。案内をしてくれた友人もここハラブジャの出身で、この攻撃のあった翌年に生まれましたが、親族をこの化学攻撃で亡くしています。この資料館の中では石に彫られた親族の名前をじっと見つめていましたが、"Yet, the life goes on(それでも人生は続いていくからね)"と外に出てから話していました。

彼のアイデンティティにも、「ハラブジャの虐殺」が彫り込まれていました。

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資料館の中にある犠牲者の名前が彫られた石碑 ©筆者撮影

虐殺を生き延び、25万人が暮らす街へと成長したハラブジャ。

「クルディスタンのヒロシマ」とも呼ばれる同地に、機会があればぜひ足を運んでみてください。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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