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トルコから贈る千夜一夜物語

木村菜穂子|トルコ

トルコでロシア人とウクライナ人が出会ったら

i-Stock 観光客で溢れるイスタンブールのイスティクラル通り

長年、トルコを訪れるツーリストの上位を占めてきたのがウクライナ人とロシア人です。2021 年にトルコを訪れたロシア人は 470 万人で、トルコに入国するツーリストの実に 20% に上ります。トルコを観光する外国人旅行者数ランキングで堂々の 1 位を占めます。対するウクライナ人は 210 万人で、トルコに入国するツーリストの 8.3% を占め、ランキングの 3 位につけています (こちらの記事をご参照ください)。

とりわけ地中海に面したトルコ南部のアンタリヤやアラニヤはロシア人やウクライナ人に大人気の観光地です。街を歩けばここにもあそこにもロシア語圏のツーリスト。ぱっと見ではロシア人だとかウクライナ人だとかは分かりません。こうしたエリアには中華街ならぬ「ロシア街」さえあります。アンタリヤだけに絞っていうと、2021 年に訪れた 900 万人のツーリストのうちの 57% がロシア、ウクライナ、ベラルーシからだということです。

iStock-490772286.jpgi-Stock アンタリヤのビーチ

トルコは長年、ロシアともウクライナとも良好で緊密な関係を築いてきました。これが、二国間の和平会議の舞台としてトルコが選ばれている理由でもあります。

増えるトルコに亡命するロシア人たち

3 月 28 日の時点で、ウクライナ侵攻が始まった 2 月 24 日以来トルコに亡命したロシア人は 14,000 人といわれています。こうした人々の多くは、反戦を訴えるブロガー、ジャーナリスト、ビジネスマン、学者、活動家たち。トルコは、現在でもロシアからのダイレクトフライトを運航している数少ない国の1つです。西側による制裁の影響でクレジットカードなどが使えなくなっているために、亡命するロシア人の多くが現金の札束を携えてやってきます。あるいは仮想通貨を現金化するロシア人も多くいるとのこと

このロシア人のトルコ流入を後押しするのが 2017 年からトルコで発給されるようになった「golden visa」なるもの。これは、外国人が数か月でトルコ市民権を取得できる制度です。条件としてはトルコに投資すること。一番手っ取り早いとされているのが 25 万ドル相当 (現在のレートでは 3200 万円相当) を物件の購入に充てること。

ロシアのウクライナ侵攻以来、この制度を利用してトルコ市民権を申請するロシア人が激増しているそうです。25 万ドル相当を物件の購入に充てるために、同時に 4 つほどの物件を現金で購入するロシア人もいるとか。侵攻が始まった今年の 2 月だけでもトルコの 509 件の物件がロシア人によって購入されたと報告されています。トルコ統計局によると、去年の同じ月と比べて 2 倍の数だということです。

iStock-1337943372.jpgi-Stock 「売り家」という黄色いサインがかかった家

西側では制裁の対象になる新興財閥 (オリガルヒ) たちでも、トルコでは制裁の対象になりません。例えば英国で制裁の対象になっている Roman Abramovich 氏もトルコに自身の豪華ヨット 2 隻を乗り入れています。トルコ側は、違法でない限りオリガルヒたちがトルコでビジネスを展開することには問題がないというスタンスを取っています


トルコにやってくるウクライナ難民たち

3 月半ばにエルドアン大統領はウクライナ難民を積極的に受け入れる意向を表明しました。

"They came from Iraq, Syria, and Afghanistan in the past. Today, they are coming from Ukraine. We cannot know where they will come from in the future. However, rest assured that our country will always continue to be a safe haven for the oppressed"

過去には、イラク、シリア、アフガニスタンから彼ら(難民)が来ました。昨今はウクライナから来ています。将来どの国から来るようになるのか分かりません。しかし確信していただきたいことがあります。我が国は抑圧されている人々にとっての安全な避難所となり続けます。

4 月 6 日に報告された時点で、トルコに逃れてきたウクライナ難民は 68,000 人だといわれています。この数は日に日に増え続けているということなので、現時点ではさらに増加していると思われます。

iStock-1378844271.jpgi-Stock 戦禍から逃れる人々

トルコでロシア人とウクライナ人が出会うのは日常的

突然始まったロシアのウクライナ侵攻。タイトルで「トルコでロシア人とウクライナ人が出会ったら」と書きましたが、トルコではこれは日常のことです。南部のアンタルヤやアラニヤに限らず、トルコの多くの場所でロシア人やウクライナ人 (その他、旧ソ連圏から来た人々) をそれはそれは非常に多く見かけます。

トルコで知り合った私の友達にも、ロシア人・ウクライナ人の両方がとても多く含まれています。実際、ロシア語圏に住んでいないにも関わらず、日常的にロシア語圏の人たちと関わり合う機会があるというのは非常に不思議なことだなと思っています。パスポート上では「ロシア人」「ウクライナ人」と分けられますが、親のいずれかがウクライナ人またはロシア人という人も非常に多く、この 2 つの国が切っても切れない関係であることを痛感させられます。私の友達にもロシア人とウクライナ人の夫婦がとても多いです。ただし友達に関していう限り、ウクライナ侵攻によってロシア人とウクライナ人との関係が悪化するなどのテンションは全く感じられません。もちろん皆が心を痛めていますが、上層部の意向で始まったこの戦争、一般市民は被害者といえます。

トルコを移住先に選ぶロシア人とウクライナ難民の今後

トルコは亡命してくるロシア人に対して大きく開かれているとはいえ、制裁の影響で Visa や Master などのクレジットカードが使えないなど生活していく上で不便を強いられることは確かです。またトルコの銀行に口座を開こうとしても、銀行によっては西側諸国の制裁の対象になることを恐れて条件をかなり厳しくするところもあるようです。ウクライナ侵攻以前からもともとトルコに住んでいるロシア人も多いのですが、ロシアの銀行のカードがトルコで使えなくなった、ロシアの会社でオンラインの仕事をしていたけれど侵攻後に職を失ったなどの影響もちらほら耳にするようになりました。

ウクライナ人難民に関していうなら、1 年間の滞在許可が自動的に与えられるという特別の措置があるといわれています。通常、3 か月以上の長期滞在を希望する外国人の場合はイカメットという滞在許可証を取得する必要があります。このイカメット取得には提出が求められる書類をそろえる必要がありますが、ウクライナ難民には特別な措置が取られるとか。とはいえ、この件に関しては当のウクライナ人たちが混乱している状況で、実際のところはまだはっきりしていません。ウクライナ難民が到着し出してまだ日が浅いので、こうした点は今後徐々に明らかになっていくかと思います。

迎える側のトルコも複雑です。ごく簡単な例を挙げますと、ウクライナ侵攻前は、ロシア人とウクライナ人はいわゆる「ロシア語圏」というグループにひとくくりにされていました。例えば、日帰りツアーを提供している旅行会社はロシア人とウクライナ人を同じバスに乗せてロシア語のツアーを催行していました。でも今後、彼らを同じバスに乗せるべきなのか...。トルコ側としてもどう行動するのが良いのか手探りな状況のようです。

今後もトルコに移動してくるロシア人とウクライナ人の数は増えると思います。どこを行き先に選ぶとしても、移住というのは簡単なことではありません。それが個人の意思と反する場合は特にそうです。今後、戦争が長引くにつれて双方がさらに複雑な思いを抱えながらトルコでの生活を強いられることになります。

 

Profile

著者プロフィール
木村菜穂子

中東在住歴13年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半滞在した後、現在はトルコ在住4年目。メインはシリア難民に関わる活動で、中東で習得したアラビア語(Levantine Arabic)を駆使しながらトルコに住むシリア難民と関わる日々。

公式HP:https://picturesque-jordan.com

ブログ:月の砂漠―ヨルダンからA Wanderer in Wonderland-大和撫子の中東放浪記

Eメール:naoko_kimura[at]picturesque-jordan.com

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