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平野美紀|オーストラリア

東京五輪を辞退した豪テニス選手ニック・キリオスの本音

メルボルンで行われたエキシビション・マッチでのニック・キリオス選手。(2016年撮影 Credit:STRINGERimage-iStock)

7月9日、東京五輪に出場するテニスのオーストラリア代表を辞退すると発表した、ニック・キリオス選手。

男子シングルス世界ランキングで現在58位(最高13位)、世界的に有名なテニス・プレーヤーは、6月29日に豪テニス協会が発表した代表選手団11名のひとりに選ばれていた。(参照

だが、7月3日にウィンブルドン男子シングルス3回戦を負傷で途中棄権した後、彼が自身のInstagramのストーリーに投稿した写真に写っているノートの片隅に「次のトーナメント―アトランタ250 Next tournament - Atlanta 250」と記載されていたことから、波紋を呼んでいた。(参照

なぜかといえば、アトランタ250 の開催期間は、2021年7月26日〜8月1日と、まさに東京五輪と同時期に開催されるからだ。

「ニック(キリオス)は五輪を辞退するのではないか?」

そんな憶測が飛び交うなかでの7月9日、キリオスは、自身のTwitterに以下のようなメッセージを投稿した。

[対訳]
皆さん、私は、この度、オリンピックを辞退することにしました。
この決断は決して軽々しく決めたわけではありません。
オーストラリアを代表して五輪に出場することは以前から私の夢であり、このような機会は二度とないかもしれないこともわかっています。
でも、それと同時に自分自身のこともわかっています。
誰もいないスタジアムでプレーするのは、自分の中でどうもしっくりこない。今までもそうでしたけど。
それに、国を代表する準備ができている健康なオーストラリアのアスリートから機会を奪いたくもありません。
自分は、体調を整えるために必要な時間をすべて使うつもりでいます。
出場するオーストラリアの選手の皆さん、頑張ってください。では、近いうちにまたコートでお会いしましょう。

このメッセージの「誰もいないスタジアムでプレーするのは、どうもしっくりこない」という部分から、日本での報道では、キリオスの東京五輪辞退は、「無観客開催に納得できず」とされているが、本当にそれだけが理由なのだろうか?

無観客での試合が不満なのではなかった!?

キリオス自身のメッセージにあるように、誰もいないスタジアムではなく、大勢の観客の前でプレーしたい、というのはもちろんある。でもそれは、単に「大勢の前でプレーを披露したい」という、プレーヤーとしての単純な願望だけではなかったようだ。

そのことが、キリオスにとって『五輪』とは何か、どんなものなのか、という問いへの回答に表れているように思う。試合後に五輪について訊かれたインタビューで、彼はこう答えている。

「満員の観客の中で、観客と一緒になってプレーをしたいのです。できれば、他のアスリートが活躍しているところを観戦できるような状況でやりたい。それが自分にとってのオリンピックなんです」(参照

つまり、彼は、観客や他のアスリートたちと一緒に皆で盛り上げていくのが五輪だと・・・そう思っているのだろう。

世界的パンデミックで人々の健康と安全を憂慮

キリオスは、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大を懸念し、3月のアカプルコ・オープンを最後にプレーしておらず、以降のすべての試合をキャンセルして、地元にとどまった。

試合に出場せず、地元にいた2020年の大半、彼は何をしていたのだろうか?

新型コロナウイルスのパンデミック初期、オーストラリアでも大勢の人が職を失うなど、食料や家賃などが支払えずに基本的な生活すらままならなくなった人が続出した。

キリオスはこの頃、自身のInstagramに以下のようなメッセージを投稿。コロナ禍で助けを必要としている人たちに呼びかけ、地元キャンベラで、食料品などを詰めたボックス作り、必要としている人へ届けていた。(参照

If anyone is not working/not getting an income and runs out of food, or times are just tough ... please don't go to sleep with an empty stomach,
Don't be afraid or embarrassed to send me a private message. I will be more than happy to share whatever I have.
Even just for a box of noodles, a loaf of bread or milk. I will drop it off at your doorstep, no questions asked!

[対訳]
もし仕事や収入がなくなり、食べ物が尽きるなど、つらい時を過ごしている人がいたら...どうか空腹のまま眠りにつかないで欲しいのです。
怖がらず、恥ずかしがらず、自分にプライベートメッセージを送ってください。
自分が持っているものは何でも喜んでシェアするから。たとえカップ麺一箱でも、パンや牛乳でも。あなたの家の玄関まで届けます。細かいことは何も聞かないから!

また、全米オープン2020への参加辞退を表明した時は、テニス界へ向け、宛名を「Dear Tennis,」として特定の名前はださないものの、自分勝手な行動を慎み、他の人のことを一度考えて欲しいという内容のレターをだした。(参照

Let's take a breath here and remember what's important, which is health and safety as a community.
We can rebuild our sport and the economy but we can never recover lives lost.
I've got no problem with the USTA putting on the US Open and if players want to go, that's up to them so long as everyone acts appropriately and acts safely. ....(cont.

[対訳]
ここで一息ついて、大切なことを思い出してみましょう、それは、コミュニティとして(皆が)健康でいることと、安全であることです。
スポーツや経済は立て直すことはできますが、失われた命を取り戻すことはできません。
全米テニス協会が全米オープンを開催すること、そしてもし選手が行きたいと思うのであれば何の問題もないです。全員が適切かつ安全に行動することができるのであれば、それは彼ら次第です。....(続

『悪童』と呼ばれ、数々の問題発言や行動で批判を浴びることが多いキリオスだが、実は、豪国内では様々な慈善活動を行い、常にコミュニティや他者への愛を忘れない人でもある。

2019-2020年にオーストラリアを襲った大規模森林火災の時も、彼は先頭を切って被災者のための支援活動をしてきた。(参照

常に自分以外の人にも心を寄せてきたキリオスにとって、「五輪という世界最大のスポーツの祭典は、世界中の皆でその喜びや感動を分かち合ってこそのもの」という認識であることが、こうした普段の彼の言動からもうかがえる。それが叶わない五輪など、参加するに値しないと、辞退したのではないか...

日頃の悪態の裏に隠れているキリオスの真の人柄と、本当は国を代表して五輪を楽しみたかった無念さが伝わってくるような気がするのは、私だけだろうか...〈了〉

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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